衆院選に見るネット工作
日本においては、2月23日の読売新聞が「日本を批判するアカウント群3000件規模、X投稿・拡散 衆院選前から中国系の影響工作か」として、SNS分析会社の調査を基に、アカウントや投稿の特徴から、中国系の影響工作の可能性があり、日本社会の分断をあおり、海外からの日本の評価を貶める狙いがあるとみられると報じている。まさに先の衆院選で外国勢力からの選挙干渉があった可能性を示唆する報道である。
アカウント数は約3000あり、「首相は統一教会から票を買っている」「首相は軍備増強と歴史修正に道を開いた」などとする約1000の投稿と約2000の転載(リポスト)があったとしている。アカウント名はカタカナや漢字を組み合わせた規則性や共通点があり、その多くは高市首相が衆院解散を与党幹部に伝えたとされる1月14日から24日に作成されたものだ。
これらのアカウントの多くは選挙後に証拠隠滅のためか削除されている。幸い今回の衆院選に対する影響工作は、突然の解散から選挙までの日程が16日間と短く、影響工作の準備も整わないうちに終了したため、その影響はほとんどなかったと見てよいだろう。
24年4月から始まったX(旧Twitter)における世論形成に大きな影響を与える自動投稿ボット(スパムBot)の禁止措置も有効に機能したようだ。ただし、中国は17年から偽アカウントを使い大量の偽情報やプロパガンダを拡散するスパム・フラージュ(Spamouflage)と呼ばれる長期的な世論操作活動を平時から継続的に行なっていることは忘れてはならない。
韓国の政権が自国民に影響工作を実施
影響工作を警戒すべきは外国勢力だけではない。12年に韓国で行われた当時の保守系セヌリ党の朴槿恵と革新系民主統合党の文在寅の大統領選への影響工作がその典型だろう。
この影響工作は、韓国国家情報院(NIS)が関与していたことが判明している。NISの女性職員がワンルームマンション(オフィステル)で影響工作を行なっていたが、情報の発信場所のIPアドレスがこのワンルームに限られ、複数のIDを使用するも発信時刻が勤務時間帯に限られるなど、初歩的なミスが重なり、当時の野党である民主統合党の職員によって場所が特定された。民主統合党の職員らはワンルームマンションを取り囲んだが、女性職員はPCのデータを消去するための時間稼ぎとして部屋に篭城したため、当初は野党による監禁事件として報じられた。
警察はPCを押収せず、不正な書き込みの証拠はなかったと早期に発表した。これは投票3日前だった。このあまりにも不自然な警察の対応が組織的な関与を疑わせる結果となって、事件が明るみになった。
問題は発覚したものの選挙は行われている。この事件の影響がどれほどあったかは不明だが、朴槿恵が1577万票(約51.6%)、文在寅が1469万票(約48%)の僅差で朴槿恵が当選している。
17年の政権交代(文在寅政権)後の調査では、NIS内部に「心理戦部隊」があり、政権が組織的に影響工作をしていたとして18年にNISによるSNS世論操作が認定され、元NIS院長の元世勲の有罪が最高裁で確定している。心理戦部隊は、北朝鮮への心理戦が本来の役割であったが、17年の政権交代とともに解体されている。
