充実したマニュアル
NISの女子職員が投稿した内容は、「左派は国家を弱体化させる」「文在寅は北朝鮮寄りだ」といったネガティブキャンペーンから「朴槿恵は安定したリーダーだ」「朴槿恵は経験豊富で安心」といった一般の有権者の感想と思わせるものがほとんどだったという。
心理戦部隊の「マニュアル」によると「文在寅って結局、親北じゃないの? 国を任せるのは不安だよ」と断定しない疑問形で読み手に自分で気づかせる、「安全保障は実験しちゃダメだ。経験のある人がやるべきだ」といった特定候補者名を出さず常識論に見せる、「やっぱり朴槿恵は準備された候補って感じがする」と主観化し宣伝っぽさを回避するなど、なるほどと思える投稿内容が指導されている。
「マニュアル」ではこのほか原則として国家情報院の職員であることは絶対に隠すこと、一般人として振る舞い、政治活動ではなく意見表明に見せることなどが書かれていたとされる。
人間型SNS世論操作モデル
この事件は、国家ぐるみの人間型SNS世論操作の初期モデルといえるが、かなり完成度の高いモデルでもある。「嘘を書くより、信じそうな形でいうこと」に重点がおかれ、もっともらしい日常の意見としての「説得型プロパガンダ」ともいえる。
影響工作で最も重要なことは、投稿内容が読者の心に刺さることであるとされる。しかもそれは深層心理に働きかける物語(ナラティブ)であればあるほどよい結果に結びつくとされている。
自動投稿ボットが禁止されたとしても人海戦術までは防げないのが実態だ。中国には、政府職員が政府から金銭を受け取って書き込みをする1000万人規模とされる五毛党や虚偽情報や親中的な世論誘導を拡散しているとされるコンテンツ・ファーム(情報工場)として知られる自千五(ズーチェンウー)と呼ばれる組織、2000万人を超えるネットワーク文明ボランティア、強い愛国心で結びついた民族主義的な小粉江(Little Pink)など多くのネット世論工作員が存在している。
これらの人々は、間違いなく実在の人物であり、IPアドレスもアカウントも実物である。これらの人々が韓国のNISが作成したようによく練られたマニュアルにしたがったナラティブを作成し、AIの自動翻訳機能を駆使した自然な日本語で投稿を繰り返した場合、防御する術は限られるのではないだろうか。
情報リテラシー教育の重要性
世論操作の影響を最小限に止めるためには国民の情報リテラシー教育を徹底し、民度を上げてゆくことだ。また、韓国の事件の教訓として政権への監視も重要となる。
我が国にも国家情報局が設置されるが、韓国のように政権による私物化が行われないよう何らかの国民による監視システムが必要だろう。
