しかし、その事実を日常的に意識することは多くありません。『お金さえ払えば何でも手に入る』という感覚が、日本人の中に根強くあるのかもしれません。しかし、お金を出しても手に入らない状況に陥れば、その認識は一変します。そうした危機が訪れる前に気づき、備えることが重要なのです」
ある大手海運会社の元役員もこう強調する。
「建造量倍増はあくまでも手段の一つであり、それを通じて、日本を〝持続可能な国家〟にしていくには、何をしていくべきなのかという視点が欠かせない」
海洋国家として
日本に求められること
マハンは1900年に執筆した論文『アジアの問題』の中で、中国と日本を対比し、「日本は島国としての国力に必須の諸要素を備えているので、必然的に海洋国家の地位を占めることになる」と述べている。
さらに「シー・パワー」を活用できるかどうかは国民次第だとも指摘する。つまり、国民一人ひとりの意識変革が欠かせないということだ。
トランプ政権は、低迷する米国造船業に危機感を抱いている。日本はこれを対岸の火事として捉えるべきではない。「今日の米国の姿は、明日の日本」になり得るからだ。
さらに、物量で圧倒する現在の中国と同じ戦略を日本が採ることはできない。
こうした状況下で、日本の造船業が生き残る道は、中国や韓国が模倣できない「日本独自の価値」や「勝ち筋」を確立することにある。技術とは生鮮食品のようなものであり、磨き続けなければたちまち陳腐化する。だからこそ、日本は人材の確保や育成を進めるとともに、先人から受け継がれてきた〝技術の灯〟を決して絶やしてはならないのだ。
かつて、国際政治学者の高坂正堯は『海洋国家日本の構想』(中公クラシックス)の中で、「われわれのフロンティアは広大な海にある」と述べ、一定程度の軍備と、通商拡大や途上国の経済発展に資することを通じて経済圏を広げることの重要性を説き、日本の針路を示した。冒頭にも述べたが、だからこそ政府は「造船業再生ロードマップ」を単なる産業政策にとどめず、それを通じて、どのような国家を目指すのか、その絵図面を国民に丁寧に示す責務がある。
呉には、戦艦「大和」を建造した旧呉海軍工廠と、その巨大な大屋根を一望できる「歴史の見える丘」がある。そこに立つ「噫戦艦大和之塔」の碑文には、こう刻まれている。
「大和は沈んでもその技術は沈まなかった」──。
戦争を美化するつもりはない。だが、戦艦「大和」は日本人の手で設計・建造されたという歴史的事実が消えることはない。多くの先人たちが血の滲むような努力を日夜積み重ね、継承されてきた技術を今こそ発展・強化させ、造船立国ニッポンへ「復活の号砲」を鳴らす時である。
