2026年5月20日(水)

デジタル時代の経営・安全保障学

2026年5月20日

 旧日本陸海軍では、参謀本部や軍令部の作戦部門が情報部門を事実上支配し、作戦上望ましい情報のみが採用される傾向があった。戦後の防衛庁が97年に統合幕僚会議から情報本部を分離設置したのは、まさにこの反省に立つ。国家情報会議と国家安全保障会議が同じ顔ぶれの閣僚たちによって運営される構造は、この戦前の轍を踏みかねない。

 国家情報会議設置法案の評価と残された課題

 人員配分の歪みと政策・情報の分離不全を踏まえれば、法案は出発点であって本丸ではない。だが、筆者は法案の意義を過小評価しない。衆議院質疑で「国家情報局長を警察出身者の指定席としない」ことが明示されたのみならず、国家情報局から各省庁への情報提供要求権が規定されたことは、現行の総合調整権なき内調から見れば確かな前進だ。

 ただし残された課題は重大だ。

 第一に、対外情報収集能力の本体である。自民党提言のとおり、対外情報収集の中核はSIGINTだ。その活動はサイバー空間をも対象とし、人類が生み出すあらゆる電子的痕跡を網羅する。よって対外情報庁(仮)は実際的にはSIGINT組織を中心に機能拡張したものにせざるを得ない。AIと融合したOSINT(公開情報)、SIGINT等の技術的手段の急速な発展を踏まえれば、外務省「国際テロ情報収集ユニット」や公安調査庁などHUMINT組織を母体とする案には限界がある。

 第二に、カウンターインテリジェンス(CI/防諜・スパイ防止)の法制度だ。自民党と日本維新の会の連立合意書は「スパイ防止関連法制」の策定を明記する。ただし、CIは警察による捜査とイコールではない。

 スパイ活動の標的は政治・軍事・先端科学技術に関する情報だ。警察や公安調査庁のアウトリーチ活動(企業への情報提供・啓蒙など)を強化し、自衛隊情報保全隊に公安調査庁並みの調査権を付与するなど、情報漏洩を防ぎつつスパイが標的とする日本人を守らねばならない。

 そして最後に、国家情報会議と国家安全保障会議の構造的分離は根本的な問題だ。法案から読み取れる「自分が自分に指示して判断する」体制は、旧軍の轍を踏む恐れがある。

 百年に一度の大改革とは、組織図を描き替えることではない。世界の安全保障の重心が「国家対国家」へ移った今、インテリジェンスのベクトルを真に「外」に向け、戦略文書の優先順位と人的資源の配分を一致させ、作戦・情報癒着の轍を二度と踏まない——これらすべてが達成されて初めて改革は本物となる。

 国家情報会議設置法はその出発点に過ぎない。本丸は、これから審議される対外情報庁設置法、スパイ防止関連法制、そして本稿で指摘した政策・情報の組織的分離の再設計にある。今後の議論を注視したい。

Facebookでフォロー Xでフォロー メルマガに登録
▲「Wedge ONLINE」の新着記事などをお届けしています。

新着記事

»もっと見る