2026年5月22日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2026年5月22日

 前述の導入台数にしても、工場などの生産現場での利用はごく一部にすぎない。「自動車メーカーが人型ロボットを導入、実証実験を開始」といったニュースをよく見かけるが、数台を試験導入してテストしている段階にとどまっているようだ。

 出荷台数の7割以上は大学や企業が研究目的で購入、2割はロボットショーでのパフォーマンス用途や観光地などでのガイド役の用途。生産現場での活用用途での導入は10%未満と推計されている。

 現在役に立たないだけではなく、将来的にもどんな有用性があるのかは実証されていない。人型ロボットは人間の労働者向けに作られた設備や工場を変更することなく働けるというメリットがあるとはいえ、ロボット向けに最適化された工場ならば、無人搬送車やロボットアームなどのほうが安く、有能だ。専用のロボットよりも汎用の人型ロボットの方が成果を出せる活用法はまだ見つかっていない。

バブルが続いている間に“何か”を探す

 人型ロボットに対する冷静な評価は、バブル真っ盛りの中国からも上がっている。

 中国人型ロボット・スタートアップで、最大の資金調達額を誇るGalbot(ガルボット、中国名は銀河通用)の共同創業者、王鶴(ワン・フー)最高技術責任者に昨年、インタビューしたところ、「(人型ロボットが)AIにおけるChatGPTのようなレベルに達するまでには10年かかるかもしれない」と率直に認めた。

 現在、メディアの注目を集めている、激しい動きが可能な人型ロボットを王CTOは「研究用・パフォーマンス用ロボット」と呼んでいる。そうではなく、周囲の状況をロボット自らが認知し、自律的に行動し、生産的な仕事をこなすようなエンボディドAI(体を持ったAI、中国語で具身智能)を発展させるには時間がかかるという。

 今はバブル的な熱狂が人型ロボット企業に資金をもたらしているが、いつまでもこのブームは続かない。カンフーを見せて期待を煽るのではなく、今できる範囲での実用性を追求するべきと王CTOは強調する。

 Galbotはいくつかのユースケースを試している。その一つがデリバリー向けの無人薬局だ。薬が置かれた棚までロボットが移動し、ピッキングし、人間の配送員が受け取る棚へ商品を運ぶ。この作業は高い精度でこなせるようになった。深夜を含めて24時間稼働し、薬という単価が高い商品を使うのであれば、現在の人型ロボットでも人間を上回るROI(投資対効果)を出せる可能性があるとにらんでいる。

 デリバリー向け無人薬局が正解なのかどうか、他のユースケースがあるのか、この答えを知るにはまだ時間がかかるが、派手な動きだけではなく地道な産業化のチャレンジが始まっている点に注目すべきだろう。

 だが、王CTOのように真剣にユースケースを模索しているケースは実は少数派だ。中国が量産を続けるのは、帳尻合わせへの自信があるからだ。


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