2026年5月31日(日)

家庭医の日常

2026年5月31日

 では、地域で家庭医診療所と多職種保健チームがよく機能しているプライマリ・ヘルス・ケア(PHC)先進国では、コロナ禍にどう対処していたのだろうか。特に、今回のテーマである「オンライン診療」にはどう取り組んでいたのだろうか(諸外国では「テレヘルス」「テレメディシン」「テレコンサルテーション」などと呼ばれることが多いが、ここでは日本の呼称「オンライン診療」に統一する)。

 私の知る限り、研究も含めて最も系統的なアプローチをとって成果を出した国はオーストラリアである。

 オーストラリア連邦政府の保健省は、コロナ禍が始まるやただちにオーストラリアの家庭医で家庭医の国際学会「世界家庭医機構(WONCA)」で会長を務めたこともあるマイケル・キッド教授を保健医療政策顧問のトップ「Principal Medical Advisor & Deputy Chief Medical Officer」に任命した。コロナ禍での同様のポジションは他の国々にもあった(たとえば米国のアンソニー・ファウチ博士)が、オーストラリア連邦政府の決断がユニークだったのは、感染症やウイルス学、あるいは公衆衛生や集中治療などの専門家ではなくて、PHCの専門家である家庭医にコロナ禍へ対処する政策立案のアドバイスを求めたことだ。

 それに応えて、キッド教授と彼のチームがしたことは、それまで世界で起こった様々なパンデミック(重症急性呼吸器症候群[SARS]、新型インフルエンザA [H1N1]、エボラ出血熱、中東呼吸器症候群[MERS]など)の研究論文をシステマティック・レビューの手法を用いて系統的に検索・収集・吟味して、そこから学んだ「教訓」を参考に、オーストラリアのコロナ禍で優先して取り組むべき課題を実際の政策に落とし込んでいったのだ。エビデンスに基づく政策立案(EBPM; evidence-based policy making)の優れた例である。

パンデミック対策の5原則

 2020年2月にオーストラリア連邦政府は「Australian Health Sector Emergency Response Plan for Novel Coronavirus (COVID-19) 」を発動した。これは、全国的なPHCの専門性を活用した全国的なパンデミック対策で、家庭医だけでなく、地域看護師と多職種保健専門職、メンタルヘルス、高齢者ケア、障害者ケア、在宅ケア、アボリジニ(オーストラリアの先住民族)ケアなど幅広いPHCセクターの主要な全国組織が連携して戦略を練ったのだ。

 キッド教授の論文から、コロナ禍に対処するためにオーストラリアが国を挙げて取り組んだ「パンデミック対策の5原則」を紹介しよう。次いつ来るかわからないパンデミックやこれからのオンライン診療を考えるために良い教材となり得る。

① 「脆弱な人々の保護」
コロナ感染と重症化のリスクが高い地域社会の人々(70歳以上の高齢者、免疫力低下、特定の慢性疾患を抱える人、50歳以上のアボリジニおよびトレス海峡諸島の人)を特定し、彼らとケアする医療提供者をパンデミックの初期から確実に保護するために、オンライン診療システムの導入、遠隔地域への移動制限、診療現場での重点的なコロナ検査などを実施した。これら脆弱な人々は、コロナ禍の前からずっとオーストラリアの家庭医診療所とPHCチームが把握していた。


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