2026年5月31日(日)

家庭医の日常

2026年5月31日

海外での研究から見える課題

 20年以降に海外で発表された研究では、コロナ禍を契機として、PHCにおけるオンライン診療が急速に実装された過程と、その成果および限界を深く分析・考察しているものが多い。前述のキッド教授らのチームが成果をあげた取り組みも含めると、日本でも参考にすべきオンライン診療の課題が浮かび上がってくる。

① アクセスの公平性
デジタル技術はアクセス改善の手段となり得る一方、「デジタルデバイド」という不公平を拡大するリスクもはらむ。オンライン診療が誰にとっても使いやすい設計でなければ、「誰一人取り残さない」という持続可能な開発目標(SDGs)の理念でもあるPHCの正統性を失う。

② 継続性
これから日本で数が増えそうなスタイルのオンライン診療には、「とにかく急いで薬が欲しい」とか「会社を休むために診断書だけ書いてもらいたい」などの「一回限りの診療」を量産する危険性がある。家庭医やPHCチームは、ケアにおける人間関係とその経験の蓄積を重視している。それは効率化だけでは代替できない貴重な資源だ。

③ 包括性
「一回限りの診療」の量産では、包括的なケアは優先されず、症状単位で切り出されるデジタル医療の限界を示すだろう。複雑な問題を抱える人や多疾患併存を抱える人ほど、ケアの断片化の被害を受けやすい。

④ 協調性
オンライン診療やAIなどデジタル技術は、医師の代替ではなく、チーム医療や地域連携を補強する「媒介」として設計されるべきである。

 今回の日本の新たなオンライン診療の制度設計では、「D to P with N」と称して、患者のそばに看護師が同席し、オンライン上の医師の指示のもとで採血・注射・検査・処置等の手技を行うことができるようになった。これが、医師・看護師ともに相応のトレーニングをした上で協調性を重視して患者の利益のために活用されるか、それとも単に医師の訪問の省略という安易な方向へ流れてしまうか、注視が必要だ。

⑤ 患者中心性
デジタル技術が臨床判断を支配するのではなく、家庭医とPHCチームが患者との対話を深める方向に使われることが望まれる。オンライン診療の質を上げるためには、オンライン診療に携わる医師と多職種保健医療専門職に患者中心のケアを実施するための相当のトレーニングが必要である。通常の対面診療でもあまり患者の話を聴かず患者への説明も十分でない医師が、オンライン診療になったからといってすぐに満足のいく診療ができることは期待できない。

 「先生、看護師さん、ソーシャルワーカーさん、薬剤師さんなど、私のことをよく知っている人とならオンライン診療でも安心だけど、街中でたまたまつながるような医者の診察はごめんですね」

 I.F.さんは、2025年11月の『ノーベル生理学・医学賞の制御性T細胞で何が変わる?自己免疫疾患の治療への突破口、家庭医が期待すること』に登場した宅配便配達員で、長く潰瘍性大腸炎の症状に悩まされてきた。複雑な彼のコンテクスト(個々の患者を取り巻く様々な要素)を理解した上での継続したケアが必須だ。

 日本のオンライン診療は、コロナ禍で急速に拡大したものの、現在も制度上は「限定的・補助的」位置づけに留まっている。一方、海外研究で示されキッド教授らのチームがあげた成果は、パンデミックに強い医療体制が平時からPHCに統合された仕組みであることを示している。

 日本のオンライン診療の政策も、単なる「技術導入」ではなく、PHCの機能をいかに拡張するかという視点で再構成されるべきであろう。

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