2026年7月1日(水)

商いのレッスン

2026年7月1日

早く採るほど約束は曖昧になる

 採用活動が早まるほど、企業は焦る。「優秀な学生を逃したくない」「競合より先に接点を持ちたい」「内定辞退を防ぎたい」「今年こそ必要人数を確保したい」というのは、どれも切実な思いである。

 採用が思うように進まなければ、現場の負担は増え、商品やサービスの質にも影響する。だから、早期化への対応を怠ることはできない。

 しかし、採用が早まるほど、逆に曖昧になりやすいものがある。それは、会社が学生に何を約束しているのかである。

 入社後、どんな仕事を任せるのか。どんな力を伸ばしてほしいのか。何を大切にする会社なのか。どんな働き方を求めるのか。どんな人には合い、どんな人には合わないのか。これらを十分に語らないまま、「成長できます」「若手が活躍できます」「風通しのよい会社です」といった言葉だけを並べても、学生には会社の実像は見えない。

 採用の場では、企業はどうしても良いところを見せたくなる。学生もまた、良い自分を見せようとする。すると、互いに本音を隠したまま、内定だけが早く出る。入社後に待っているのは、「思っていた会社と違う」「思っていた仕事と違う」というずれである。

 これは学生だけの責任ではない。企業が自社の仕事や価値観を十分に言語化できていないことの表れでもある。

 早く内定を出すことは、採用活動の一つの成果ではある。しかし、本当の成果は、入社した人が力を発揮し、会社とともに育つことである。内定はゴールではない。会社と若者が、ともに働く関係の入口である。

会社の中身を先に見せる会社

 ここで示唆に富むのが、「面白法人」を掲げる株式会社カヤックである。同社は経営理念として「つくる人を増やす」を掲げ、新卒採用ページでも、自社を面白いサービスを次々に生み出すクリエイター集団と位置づけている。社員が面白がって働くこと、オリジナリティのあるものをつくり続けることを大切にしている会社だ。

 カヤックの採用が注目されてきたのは、ユニークな取り組みが多いからである。たとえば、履歴書の代わりに検索結果をもとに選考する「エゴサーチ採用」がある。自分の名前、ブログ、作品名など、自分のことがよくわかり、検索で上位に出るワードで応募する。整えられた履歴書だけではなく、普段の発信や活動の跡を見ようとする採用である。

カヤックホームページより写真を拡大

 一見すると、これは奇抜な採用キャンペーンに見える。だが、本質は奇抜さにあるのではない。カヤックが採用の場で、自社の価値観を隠していないことにある。

 「面白法人」と名乗ることは、万人に好かれるための言葉ではない。むしろ、合う人と合わない人を分ける言葉である。

 自分たちは何を面白がる会社なのか。どんな人と働きたいのか。どんな仕事に価値を置くのか。それを先に示しているからこそ、応募者もまた、自分がその船に乗りたいのかを考えられる。


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