患者にとっては、「自分の症状を他人にわかってもらえない」というフラストレーションがたまるし、毎日自分の身体に何らかの症状を見出すことで落胆や自信喪失を経験することにつながる。「仕事や運動を続けられなくなるのではないか」と心配する人もいる。
U.B.さんも「夫の介護ができなくなったらどうしよう」とずっと思い悩んでいたことを、後になって告白してくれた。一方で、症状があっても、本人も家族も「歳をとったせいだ」と思って、何年も放置しておかれることも少なくない。
診断には症状とその変化の組み合わせが重要で、①臀部から下肢に痛みやしびれがある、②歩行や起立した姿勢で症状が悪くなる、③椅子に座ったり腰を丸くして前屈することで症状が軽減する、という所見のどれか一つだけでは腰部脊柱管狭窄症である確率は高くはないが、これらがすべて揃うと可能性はかなり高まる。
症状が変化するメカニズム
なぜ姿勢によって症状が悪化したり軽減したり変化するかを理解するために、また背骨の構造から説明したい。
人間の脊柱は、重い頭を支えて直立歩行するために、側面から見てゆるやかなカーブで蛇行しており(生理的湾曲と呼ぶ)、頚部では前方へ(前湾)、胸部では後方へ、そして腰部では前方へ湾曲している(それぞれ前湾、後湾、前湾と呼ぶ)。脊柱管も脊柱に沿っているため、腰部では前湾している。
椎体や椎間板の変性など、狭窄の原因が脊柱管の前方に存在することが多いので、歩行や起立など腰部の前湾を強める姿勢では神経がより圧迫されて症状が増悪する。逆に、前湾を弱める、または後湾する姿勢では、神経の圧迫が軽減されて症状が和らぐ。
代表的な姿勢は、椅子に座ったり、ショッピングカートを押す時の前屈みの姿勢であり、その姿勢で症状が和らぐことを「ショッピングカート・サイン」と呼ぶ。自転車で走行する時も、上体が前傾して腰部は後湾するので、症状が緩和される。
このような症状の変化の特徴は「神経性間欠性跛行」と呼ばれ、腰部脊柱管狭窄症の臨床所見に関するあるシステマティック・レビューでは、患者の82%に神経性間欠性跛行が認められた。
もともと「間欠性跛行(かんけつせいはこう)」とは、歩行時には片脚を引きずったり左右の下肢の使い方にアンバランスがあり、少し歩くと下肢に痛みや痺れが生じるため、時々立ち止まって休んではまた再び歩くことを表した言葉である。この症状が起こるのは、閉塞性動脈硬化症など、動脈硬化によって下肢の血管の流れが悪くなる疾患が代表的だ。今では、「神経的間欠性跛行」と区別するために「血管性間欠性跛行」と呼ばれることが多い。
「血管性間欠性跛行」は、下肢のどんな運動でも症状が増悪するし、姿勢にかかわらず休息することで速やかに症状が改善することで、腰部脊柱管狭窄症で現れる「神経性間欠性跛行」と区別される。
