2024年12月23日(月)

オトナの教養 週末の一冊

2014年8月15日

――一方で、戦争景気によりたくさんの成金も生まれたんですね。

井上:私はバブル期を経験していますが、あの頃はこのままバブル経済が続いていくのではないかという錯覚があったように思います。でも、100年前の戦争景気の時の人々はそれよりも冷静でした。戦争景気はいずれ終わるし、いつ終わるのかということを心配していたくらいです。成金に対しても反社会的で品がないと批判していました。

――戦争景気が一般庶民にもたらしたものはなんでしょうか?

井上:戦争景気の余得が広がり、格差是正のために労働組合が組織されたり、労働争議が起きたことで多少賃金が上がった側面もあります。それが大衆消費社会の発端を大戦後につくります。

 たとえば、デパートの大衆化です。それまでデパートというのは、お金持ちが買い物へ行くところで、庶民には手の届かない場所でした。しかし、その頃から庶民でもたとえ買い物が出来なくても、デパートの中でウィンドウショッピングをしたり、デートをしたりするようになったんです。それに対して、デパートの店員さんも将来のお客さんになるかもしれないとのことで、嫌な顔をしなかったそうです。

 またこの頃、高島屋には、現在で言う100円ショップのような「10銭均一」や「20銭均一」の店が登場し、少しずつ大衆消費社会が始まったのです。

――3つ目の政治についてお聞きします。まず、大戦前後で国際政治に変化はあったのでしょうか?

井上:大戦前の国際政治は、たとえば日英同盟や日露協商といったように、同盟・協商関係や秘密の協定を結んでいたという特徴があります。このような外交の裏付けは軍事力で、当時の日本の軍事費は国家予算の半分近くまで膨張していました。

 しかし、大戦後は、戦勝国のアメリカを筆頭に軍事費の削減が行われ、日本の軍事費もピーク時の半分程度まで減少しました。また、条約も2国間の同盟・協商関係から、多国間で、さらに公開の会議の場で条約を結ぶという流れになります。

 この戦争の前は空想でしかなかった国際連盟も発足します。現在では、さまざまな国が集まり、難しい問題を話し合うのは当たり前のように思うかもしれませんが、その当時では主権国家は絶対的な存在であり、主権を部分的にであれ国際連盟のような組織に預けるというのは考えられないことだったのです。国際連盟は戦争という大きな代償を支払い実現しました。


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