木下:例えば、地域で新たな事業をやろうとして、役所の人たちと話していても、埒が明かないことが多いわけです。東京とかでバリバリ事業をやりたいとか、リスクを取って起業しようとかいう志向がないからこそ、地元に戻ってきて役所に就職して落ち着いてしまっている、基本的にはそういう場合が多いわけです。
そういう方に新規事業の話をしても理解してもらえない。目の前に与えられた仕事をちゃんとやろうというモチベーションは正しいものですが、それだけではもうどうにも地方が立ち行かないことが明らかになっているのに、これまでの仕事の枠組み、進め方以外を自分で開拓していこうとは思わないことが多い。しかし彼らは行政組織として許認可を含めた権力を有しているわけです。ただし、若手の一部にはまだ環境に毒されずに、どうにか新しいことに取り組みたいという人もいます。だけど、自分からは行動できない。このあたりを狙い撃ちにします。
一方で、やる気はあってリスクもバリバリとって事業やるけど、権力もなければオーソライズもされていない人たちこそが、地域で様々な事業を起こし始めています。これらの人たちを街で飲み歩いて発掘することも大切です。
権力を持っているけれど自分達が率先して挑戦できない人と、やる気があってバリバリ挑戦するけど地元では公的立場のない人を組み合わせて事業化を図っていく、これは我々の仕事では極めて重要な役割です。外部の人間であり、かつ市役所にも一定認知されている、そういう存在が間をつなぎながら、地元にいても相容れない2つの層が、互いのメリットを認めて事業をやる枠組みにしないと、しっかりとした実績を上げることは難しいです。
飯田:東洋大学の川崎一泰さん(財政学・公共経済学)※の研究では、地方公務員と民間の官民給与格差が大きい地域ほど、労働生産性が低いことが指摘されています。
※川崎一泰(2013) 「官民給与格差が地域経済に与える影響」,『官民連携の地域再生――民間投資が地域を再生させる』(勁草書房)、第四章。
合理的に判断する人ほど、給料が高ければ公務員になってしまう。地元に愛着を持っていて、地元を何とかしたいと思っている人は多いでしょう。でも、さあ何をやるか、となるとビジネスに向かわずに、地方公務員になってしまう。
木下:もっとビジネスマインドのある人は東京に来てしまうし、海外にだって行ってしまいますよね。おっしゃるように地域内での給与体系は公務員が一番高いケースが多いし、様々な社会保障も恵まれています。ビジネスを起こそうと思った時に、よりチャンスのあるところでと思うのが自然です。
だからある意味で相対的に行政のポジションが低い「大都市集中」が進んでいくのは自然な流れだと思います。せっかく頑張って地元で事業を興しても、役所で淡々と仕事をしている人のほうが給料高かったら、やはりバカバカしくなるし、生産性なんてあがらないですよね。だから、地域で事業を興しても、規模が一定以上になると大都市に拠点をシフトしてしまう人も少なくありません。地域経済の規模は小さい割にしがらみは多くて、さまざまな「調整」もかかったりします。ビジネスの自由さや公正さでいえば、大都市のほうがフェアなんですよね。
飯田:「都市は人を自由にする」は現代にも生きているのかもしれません。よほど強い動機がないと、地方で事業を興して継続していくのは難しい現実があるわけですね。(第2回へ続く)
木下斉(きのした・ひとし)
1982年生まれ。一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事、内閣官房地域活性化伝道師、熊本城東マネジメント株式会社代表取締役、一般社団法人公民連携事業機構理事。高校時代に全国商店街の共同出資会社である商店街ネットワークを設立、社長に就任し、地域活性化に繋がる各種事業開発、関連省庁・企業と連携した各種研究事業を立ち上げる。以降、地方都市中心部における地区経営プログラムを全国展開させる。2009年に一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス設立。著書に『まちづくりの経営力養成講座』(学陽書房)、『まちづくりデッドライン』(共著、日経BP社)など。
飯田泰之(いいだ・やすゆき)
1975年東京生まれ。エコノミスト、明治大学准教授、シノドスマネージング・ディレクター、財務省財務総合政策研究所上席客員研究員。東京大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。著書に『経済は損得で理解しろ!』(エンターブレイン)、『ゼミナール 経済政策入門』(共著、日本経済新聞社)、『歴史が教えるマネーの理論』(ダイヤモンド社)、『ダメな議論』(ちくま新書)、『ゼロから学ぶ経済政策』(角川Oneテーマ21)、『脱貧困の経済学』(共著、ちくま文庫)など多数。