中国の安全保障上の脅威に対する韓国人の認識
しかし中国を協力の対象として認識する一方で、安全保障上の脅威とみなす人は全体の66%を占めている(図3)。前述内容と矛盾するようだが、これが韓国の現実なのだろう。興味深い点は、2012年に実施した同じ調査では、73%の人が脅威とみなしていたことに比べると、2年間で約10%低下している点である。
この背景を理解する上で、近年の中国と北朝鮮の関係を振り返る必要がある。韓国は、中国の北朝鮮に対する姿勢や政策を、常にそして静かに観察しているのである。報告書でも指摘されているとおり、韓国が中国を安保上の脅威としてみなすか否かは、北朝鮮問題と大きく関わってくる。図4は「朝鮮半島で有事が起きた際に、中国が北朝鮮を支援するために介入してくると思うか」という質問に対する回答である。2011年には72.1%の人が「北朝鮮を支援するために介入してくる」と答えたにもかかわらず、2014年には34.9%にまで低下している。中朝関係と、韓国の対中安保脅威認識は比例の関係にあることが読み取れる。
一例を挙げてみたい。2010年、北朝鮮は韓国に対して2度の軍事挑発を行った。「天安」艦沈没事件では46名の韓国兵士が犠牲になり、延坪島砲撃事件では2名の兵士と2名の民間人が犠牲になった。この二つの事件に対し、中国が北朝鮮の肩を持ったことは、韓国国民の対中感情悪化に影響を与えたであろう。
「天安」艦沈没事件後、国連安保理の場で北朝鮮に対する議長声明が全会一致で採択された。しかし韓国の要求に反して中国は、北朝鮮を名指しで非難することや謝罪を求めることに反発したため、結果としてこれらは議長声明に反映されなかった。対抗措置として韓国政府が北朝鮮に対して行った経済制裁措置(5.24経済制裁措置)にも中国は協力しなかった。延坪島砲撃事件の例では、砲撃事件の翌週に米韓両軍が西海で合同軍事演習を実施したが、演習に先立ち中国政府は、同演習が北朝鮮を刺激しかねないとして正式に反対を表明してきた経緯がある。
このように、中国が北朝鮮を擁護する姿勢をとったことで中韓関係は悪化し、結果として2011年から2012年まで中国に対する不信感や脅威認識が高まったといえよう。