2024年4月17日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年3月13日

 予想困難な戦争の進化は、国防計画策定者達にとって深刻な挑戦である。米国について言えば、アジアや欧州において重要な抑止力となっている通常兵力の継続的な維持と、中東の混乱への対応に必要な別種の幅広い能力を備える為の投資との間のバランスを図る必要がある。前例のない変化の時代にあって、米国および他の主要国は、あらゆる事態に備える必要がある、と論じています。

出典:Joseph S. Nye,‘The Future of Force’(Project Syndicate, February 5, 2015)
http://www.project-syndicate.org/commentary/modern-warfare-defense-planning-by-joseph-s--nye-2015-02

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 戦争手法の歴史的変化を解説した論説であり、現代においては、非国家組織が引き起こすハイブリッド戦争への対応が重要であることが強調されています。

 確かに、現時点で見れば、「イスラム国」(IS)の台頭やウクライナの親ロシア派への対応が米国政府にとって重要な課題となっているので、そのような重点の置き方も理解できないことではありませんが、今後の安全保障政策を考える上で、この種の脅威に過大な焦点を当てることには疑問があります。ISの脅威は、有志連合の軍事的圧力や資金獲得能力の低下により、次第に限定的なものとなる可能性があり、また、ウクライナの親ロシア派の問題については、軍事的な解決は無く、政治的な解決を図る他ないでしょう。

 ナイは、ハイブリッド戦争という言葉を使って、戦争への非国家組織の関与の高まりを新しいことのように言っていますが、この議論は、「9.11」のテロを受けて急速に高まった「新しい戦争」論の焼き直しのようなものです。「新しい戦争」論においても、国際テロ組織のような非国家主体への対応が中心となると喧伝され、大国間のパワーポリティクスが閑却される傾向にありました。そうこうしている間に、中国が着々と台頭して、既存の国際規範に挑戦しようとし、ロシアも実態はともかくとして、大国として振る舞おうとするようになっています。ナイは、ウクライナの問題をハイブリッド戦争の例として挙げており、そういう側面も確かにありますが、その背後にあるロシアの姿勢こそが問題の核心と言うべきでしょう。

 さらに、非国家組織が戦争に関与するというのは、冷戦時代から既に見られた現象であり、米ソが相手方の陣営に属する国の反政府ゲリラを支援することなどは日常茶飯事でした。技術の進歩によって態様や性格に何らかの変化が生じるのは当然で、非国家組織の戦争への関与の新しさが強調されるべきなのか、疑問があります。

 ナイは「予測困難な戦争の進化」と言っていますが、果たしてそうでしょうか。中長期的に見た場合、「新しい戦争」と呼ぼうが、ハイブリッド戦争と呼ぼうが、グローバルな安定と平和を決定づけるのは、結局は、パワーポリティクスである、という点を軽視するのは適切ではありません。具体的には、米国の安全保障政策にとっては、軍事力の増強を続ける中国に対し、十分な抑止力を維持することが必要であり、それが最重要の課題であることを忘れてはなりません。

  
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