人材面では、「大企業に入れば一生安泰」という時代が過ぎ去り、一度大企業へ入った優秀な若者が、ベンチャーへ流れてくるケースが増えている。
90年代には数千万円かかっていたサーバ費用が、アマゾンウェブサービス(AWS)などの誕生により、年間数万円から数十万円程度で利用可能となったことや、賃料の安いシェアオフィスの増加などが、ランニングコストの削減に繋がった。ベンチャーの世界に飛び込むリスクは減っており、人材呼び込みに一役買っている。
エンジェル投資家などの投資・育成側にも、90年代に起業し、IPOに成功した人材が流入しており、資金とともに起業のノウハウを提供している。
必要な「失敗を許容する文化」
KDDIは他社に先んじて積極的にベンチャーと関わりをもってきた。音楽ストリーミングサービスのKKBOXやニュースサイト「ナタリー」を運営するナターシャを買収し、自社サービスに加えるなどして、ベンチャーの活力を取り込んでいる。
11年からはベンチャー育成支援プログラム「KDDI∞Labo」をスタートさせ、これまで計34社を支援してきた。なかには出資することになった企業も存在する。
「KDDIのアセットに収まりきらないベンチャーも出てきたため、昨年からは他の企業にもメンターとして参加してもらっています」(新規ビジネス推進本部の江幡智広戦略推進部長)
自前主義には限界を感じているが、かといってベンチャーとの接点はなく、新規事業部門を創設するにあたり、何から手を付ければ良いのか分からないといった悩みを抱えていた企業が数多くあった背景もあり、「KDDI∞Labo」のメンタリング企業はスムーズに集まった。大企業も生き残りをかけて、変わり始めたといえるだろう。
ベンチャーにかかる期待は日に日に増し、取り巻く環境も改善傾向にあるが、まだまだ不十分な点も多い。環境改善は、日本の国際競争力の高まりに直結する。
シリコンバレーにおいてもベンチャーの成功率は高くない。しかし、多くのグローバル企業を生み出し、国の新たな富を創造している。ベンチャー買収が高確率で成功することはあり得ない。そもそも無数の失敗の上に成功が成り立つモデルだ。多くの大企業で見られる、「失敗を責める文化」を「失敗を許容する文化」に変えないことには、日本で次々にベンチャーが花開く日は訪れないだろう。大企業は戦略だけでなく、意識の転換も求められる。
(写真・小平尚典)
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