さらにベンチャーの成功者が増えれば、大企業志向の強い日本においても、ベンチャーを起こしたり、ベンチャーに就職したりする優秀な若者が増えることが予想される。シリコンバレーではスタンフォード大学やカリフォルニア大学バークレー校(UCバークレー)を卒業した優秀な学生の多くがベンチャーへ進む。もちろん既存の大企業に進む学生もいるが、数年後にベンチャーを立ち上げるケースも多い。
大企業にも利がある買収
どんな大企業であれ、すべて自前で開発していくことは不可能だ。キラリと光る技術をもっていたり、面白い製品をつくっていたりするベンチャーを買収して、自社の新しい柱に育てればよい。今や当たり前のようにGoogleのサービスとなっているAndroidやYouTubeも買収によって手にしたものだ。最近はロボットやAI(人工知能)関連のベンチャーを買い漁っていることで知られる。
Googleが自動運転の世界でメインプレイヤーとなっているのは周知の通りだが、ベンチャーの買収をせず、自社だけですべて開発しようとしていたら、今のポジションがないことは明らかだろう。
「R&D(研究開発)はベンチャーに任せ、有望株を大企業が買収することは、一種の理想のかたちともいえます。アメリカではこうした考えに基づきR&D部門をスリム化している企業が多くあります」とジャパンベンチャーリサーチの北村彰代表取締役は話す。
「50インチの次は60インチ、4Kの次は8K……、大企業は自社製品の延長の製品をつくることには長けており、これはこれで難しいことなのですが、まったく異なるコンセプトのものをゼロからつくることは得意ではありません」。そう話すのは、松下電器産業(現パナソニック)を経て、ものづくりベンチャーCerevoを立ち上げた岩佐琢磨氏だ。
しかし、そんな日本でもいよいよ変革の兆しが表れ始めた。企業の投資や買収についてアドバイスを行っているレコフによると、コーポレートベンチャーキャピタル(コーポレートVC)を含む、上場企業によるベンチャーの買収や出資はここ2年で急増しているという。すべてが開示されているわけではないが、レコフが把握している範囲で、11年49件、12年53件だったものが、13年は92件、14年は100件へと増加している。
背景にあるのは大企業の危機感だ。1990年代後半、2000年代半ばにもベンチャーブームがあり、今回は3度目となるが、「10年前、20年前より、業績の悪化している大企業が多く、これまでとは危機感が異なります」(トーマツベンチャーサポートの斎藤祐馬氏)。3度目の今回こそ「いよいよ日本にベンチャー文化が根付いてきた兆しがみえる」という声も耳にする。
というのも、富士通、NTTドコモ、フジテレビやTBSをはじめ、大企業がベンチャーに出資するための組織であるコーポレートVCを続々誕生させている。設立準備中の企業も多いという。キユーピーなど、直接本体が出資する企業も出てきた。09年に設立された産業革新機構の存在も国内の資金調達環境を向上させている。