2024年11月22日(金)

エネルギー問題を考える

2015年6月1日

 前述の買取価格を効率的に決める方法として、太陽光導入見通しを達成するために年間250万kWの入札を行うことも考えられる。現在の太陽光導入量は住宅・非住宅あわせて2131万kW(2015年1月末時点)(前掲図2)であり、現在の導入ペースから3月末の導入量は約2500万kWと思われる。今回見通し小委が示した2030年6400万kWまでは、残り3900万kWだから、2030年度まで16年間かけて年間250万kW導入すればよいことを意味する。

 コスト等検証委員会は、メガソーラーのシステム価格が、現在の29.4万円/kWから2030年度には18.5~22.2万円へ約3割低下すると推計している。もちろん、これは導入による学習効果等をもとに試算されているものの、我が国の太陽光買取価格は、欧州FIT先行国のそれと比較した場合、依然として2~3倍以上も割高であり、導入量をコントロールすることで、費用負担とのバランスをとるといった制度設計が必要である。

上限設定は国際標準
ドイツですら上限を設定しなかった非を認めている

 加えて、上限設定は国際常識である。FITの賦課金抑制には、太陽光が想定していた年間導入目標を大幅に超過する設置が進む「太陽光バブル」への対策が重要であり、欧州FIT先行国(ドイツ・イタリア・スペイン・フランス・英国)の全てで、(1)買取価格の大幅な切り下げ、(2)買取価格改定時期の高頻度化、(3)導入上限が実施されている[5]

 特に重要なのは導入上限の設定である。ドイツでFITの運用を担っている連邦環境省(BMU)ですら、導入上限が実施されていれば、賦課金が高騰する等の「間違い(mistake)」が避けられていたと、導入上限を設定しなかったことを“mistake”として公式な場で言及している [6]

 実は、我が国のFIT法においても、「効率的な供給を行う場合に通常要する費用」に「適正な利潤」を加えて買取価格を算出するとしながらも、「我が国における再生可能エネルギー電気の供給の量の状況(中略)その他の事情を勘案して定める(同法3条2項)」という規定が存在している。買取価格を算定する調達価格等算定委員会はこれまで、導入量や目標に基づく買取価格は定められないという認識であったが、太陽光に偏重した導入が進む現状や、FIT先行国の常識を考えても、この規定に基づき、導入上限の設定を検討すべきである。

 既に太陽光の設備認定量は莫大であるため、買取総額を抑制する方策は限られる。それでも、莫大な既認定分についての見直し抜きにして、ミックス案が掲げる電力コストや買取総額の目標は到底達成することはできない。政府が掲げる「再エネの最大限導入」は、いくら高くても何でも買い取ることではない。効率性の観点にたてば、再エネ買取総額を出来るだけ抑制するために、FITによる太陽光買取の早急な停止と、入札等の競争原理を用いた制度改正が必要である。


参考文献
[1]総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会新エネルギー小委員会(第9回、2015年2月3日配付資料)
[2]朝野賢司「太陽光発電等の大量導入により、今後の賦課金負担はいくらになるのか?」『電気新聞』2015/03/09掲載
http://criepi.denken.or.jp/jp/serc/denki/pdf/20150309.pdf
[3]見通し小委における「電力コスト」は、火力・原子力の燃料費とFIT買取総額であり、通常、電力供給に必要なコスト(設備費等)は含まれていない。
[4]地球環境産業技術研究機構(2014), 「電源別発電コストの最新推計と電源代替の費用便益分析」
[5]朝野賢司(2014)「我が国の固定価格買取制度に関する費用負担見通しとその抑制策の検討」、電力中央研究所報告 Y13031.
[6]下記文献では、FITによって再エネの普及やコストダウン等の効果があったとしており、FIT自体の正当性を主張する点は従来と変わらない。ただし、技術的に未成熟だったPVをFIT対象としたことで賦課金が高騰したことを認め、2014年の法改正で導入された上限があればmistakeは避けられたことを公式な場で言及している点では珍しいと思われる。
Poschmann, Andre(2013), German Renewable Energy Policy What can be learned from the German case? driver – mistakes – challenges, The International Renewable Energy Agency (IRENA) Workshop on Renewable Energy Policies

  
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