兵士たちのセルフィー
このように、ウクライナ紛争ではロシア軍兵士の撮影するセルフィーがロシアの軍事介入を裏付ける重要な証拠となってきた。
それに限らず、兵士や一般市民が戦地で撮影し、ネット上にアップされた画像は、ウクライナ紛争の様々な側面を浮き上がらせてもくれている。
戦場となった街で平然と営業を続けるカフェ、目を覆いたくなるような重傷の兵士、あるいは敵兵の死体と笑顔で写真に収まる兵士……ことの善悪は別として、今のウクライナがどういう場所であるかをこれらのセルフィーは如実に示してくれている。
こうしたなかで、ニューヨークに拠点を置く「VICEメディア」のロシア系ジャーナリスト、サイモン・オストロフスキーが「兵士たちのセルフィー」という番組を制作し、今年の6月にロシア語と英語でYoutubeにアップしたことが話題になった(英語版はこちらから閲覧できる。https://www.youtube.com/watch?v=2zssIFN2mso)。
オストロフスキーが注目したのは、バトー・ドンバエフという兵士である。ドンバエフはモンゴル国境に位置するシベリアのブリヤート共和国出身のアジア系兵士で、今年2月のミンスク停戦合意の最中、激戦地となったデバリツェヴォの戦闘に参加した。
何故それが分かるかと言えば、彼が軍隊生活から戦場での様子までを事細かにセルフィーに収め、VKに投稿していたためだ。
そこでオストロフスキーは、ドンバエフの投稿したセルフィーのジオタグを頼りに、彼の足跡を辿り始める。
モスクワの赤の広場から始まり、タガンログの野営地、そしてデバリツェヴォの戦場にまでオストロフスキーの取材は至る。現地の住民にインタビューすると「カザフスタン人が来たのよ」「違うわ、あれはブリヤート人よ」という会話があり、ドンバエフの属していたブリヤートの部隊が組織的に送り込まれたらしいことが窺われる。
最後にはオストロフスキーはドンバエフの自宅を訪ね、そこに本人が居ないと分かると電話取材を試みるが、「写真に写っているのは自分ではない」「そんな写真は投稿したことがない」と否定されるところで取材は終わる。
ロシアの軍事介入を示す極めて生々しいドキュメンタリーだが、オストロフスキーがロシア政府から記者証の発給を拒否されていることが分かった。ロシアの反体制派TV局「ドーシチ(雨)」が6月22日に明らかにしたところによると、オストロフスキーは2014年から記者証の発給を申請しているものの、理由がはっきりしないまま発給を受けられていないという。
問題の「兵士たちのセルフィー」は旅行者ビザで入国して撮影したものであるといい、撮影中には情報機関員を伴った連邦移民局職員が彼のホテルを訪問したこともあるとオストロフスキーは述べている。
ちなみに現在、ロシア政府はウクライナにロシア兵が入っていることは認めているものの、あくまで自発的に親露派に味方した「義勇兵」であるという立場をとっている。
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