2024年11月24日(日)

対談

2015年9月26日

「10の鉄則」と地域内循環

久松 本当にそうですよね。そんな環境に、いわゆる「士業」の人もアジャストしていく。「こうすればお得です」みたいな話ばかりして、事業本体のサポートとしては機能していなかったりしますよね。

木下 「こんな制度があるんです」「うまく使えば年間に●万円もらえます」なんて、テレビショッピングじゃないんだから、って感じですよね。
稼ぐことと正面から向き合うことは、自分だけセコく得するとかそういう話じゃないのですが、なかなかそうはならない。与えられた配給を、地域同士で奪い合う構造になってしまっている以上、情報格差を利用した「お得情報」をもってくる名ばかりコンサルが暗躍しますね。

久松 深刻ですよね。自治体職員が地元の民間に比べて給料が良くなかった時代は好きな人しか来なかったから良かったんでしょうけど。

木下 難しいですよね。ほんと。役所も給料低すぎると、ちゃんとした人がこない。かといって給料を高くすると、今度は地域で教育投資を受けた人が皆きてしまい、漏れた人は地元ではないところで働いてしまう。

久松 その意味では、木下さんの『稼ぐまちが地方を変える 誰も言わなかった10の鉄則』の「鉄則」は、どれもすごく良いことを言っているなあと思います。たとえば利益率にこだわることとか、利益を地域外に流出させないようにするとか、わかりやすく書いてあるけど実はものすごく難しいことですよね。

まちづくりを成功させる「10の鉄則」
①小さく始めよ
②補助金を当てにするな
③「一蓮托生」のパートナーを見つけよう
④「全員の合意」は必要ない
⑤「先回り営業」で確実に回収
⑥「利益率」にとことんこだわれ
⑦「稼ぎ」を流出させるな
⑧「撤退ライン」は最初に決めておけ
⑨最初から専従者を雇うな
「お金」のルールは厳格に

一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンスのフェイスブックより

木下 このあたりは「地域内資金循環」の構造的理解を頭の中に持っているかどうかで、話が通じる人と通じない人に分かれちゃうんですよね。たとえば先日会った自治体の市長さんと職員さんは、指定管理者制度による民間経営の図書館ができる予定だそうで、すごく盛り上がっていました。「夜まで開館していて市民の利便性が増す」とか、「立派な綺麗な図書館ができて市民が喜ぶ」という、いわば内輪での評価が軸になっているんです。そこにはお金の話がないばかりか、域外収支といった資金循環の視点からの議論は全くない。

 指定管理料を地域外企業に支払う以上、それによって地元では資金循環の欠損が起こります。そんなに人が集まる図書館ができるなら、一体となった商業施設も作ればいい。そこでは地元資本の企業に商売をさせて、地域全体での負担を相殺していくといった地域内資金循環の構造的理解がセットになっていないと、「喜ばれるもの」を採算度外視でやるだけになってしまうんですよね。昔はそれでよかったかもしれないけど、厳しい財政下で、それでも維持可能な魅力的な施設を作っていくには、物事を複眼的に同時並行で捉える力が要求されるんですよね。それがこれからの時代の、生き抜く力だと思います。

久松 木下さんのお話を伺っていると、まちづくりって経営そのものだな、という気がします。収支のバランスを考えなければいけないことを、せちがらいとしか感じられない人と、制約条件の中で最大の成果を出す「ゲーム」を面白がれる人と、どちらがこれからの時代に必要ですか、と皆に問いたいですね。

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