オバマ大統領は、選挙戦を腹心として戦ったスーザン・ライス国連大使から直々に、日本政府は米中が合意した妥協策を全面的に支持しているとの確証を得ていた。だが、その翌日あたりにオバマ大統領が麻生首相と電話会談をした時、あろうことか、それが事実ではないことが明らかになった。このことは、日本の国会で米中妥協策がやり玉に挙がることでよりはっきりした。
オバマ大統領はその時、ここでは繰り返せないような乱暴な言葉を使った。以来、両首脳の関係は厳密に、外交儀礼に求められる範囲に限定されるようになった。本物の信頼が生まれるチャンスは完全に失われたのだ。
そして今度は、岡田克也外相を脇に控えさせての鳩山首相の登板である。両氏は継続中の関係を巧みに操ること、そして古い諺に従えば、「川の途中で馬を乗り換える(変節する、軌道修正するの意)」ことを求められている。
オバマ大統領と米政府の日本ウォッチャーが、当初から懸念ばかりかためらいさえ抱きながら新たな日米関係に向き合うことになったのは秘密でも何でもない。日米同盟や米軍普天間・嘉手納基地の問題、インド洋・アフガニスタン・パキスタン支援問題など、同盟そのものの真髄にかかわる複雑かつ困難な諸問題に対する小沢、鳩山、民主党の見解が、どれも英語になっていて、心配の種はそれこそはっきりしていたからだ。
ただしだからこそ、(東京の)民主党政権の立場やそれに伴う懸念は、ワシントンの日本担当者にとって驚きではなかったのである。
だが、悲しいかな、ここワシントンでは、日本政府と日本企業が長年自らを脇へ脇へと縮めてきたこと、それに「中国の台頭」とが重なって、日本の雑誌に寄稿した鳩山論文の抄訳がニューヨーク・タイムズ紙とインターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙に配信されると、ワシントンには雷鳴のように鳴り響いたのである。
突如、あらゆる人が民主党幹部と深く接した経験を持つ米国人専門家を探し始め、コロンビア大学のジェラルド・カーティス氏のような学者やオリエンタル・エコノミストのリチャード・カッツ氏のようなジャーナリスト、スタンフォード大学ショレンスタイン・アジア太平洋研究センターのダン・スナイダー氏のような政策通が引っ張りだこになった。
しかし、こうして集められた深い見識も、民主党に関する懸念などお構いなしといったロバート・ゲーツ国防長官の公の言動を変えるには遅すぎた。
仮にゲーツ長官がそれを認識していたとしても、白黒はっきりさせるために鳩山首相を厳しく諭し、民主党政権に対して2006年に米政府が自民党政権と合意した普天間移設計画を実行に移すことを厳格に求めることが自分の責務だと感じたのだろう。
これはまさに、最悪の形の古き悪しき「ガイアツ」である。次のコラムでは、オバマ大統領と鳩山首相が互いのニーズと期待をどれだけうまくなんとかできたか検証する。
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