2024年12月20日(金)

WEDGE REPORT

2016年6月25日

 移民の増加で英国人の就業機会が奪われたり、数が多く煩雑なEUの規則への反発やEUの多額の拠出金への不満など、離脱派が主張してきた事情は理解できなくもない。1980年代からのサッチャー改革によって英国の社会は大きく変質し、市場開放や規制緩和、外資の積極導入、そしてグローバル化などが進展してきた。金融サービスなどが伸びる一方、ものづくりの力は相対的に弱くなった。そうした動きについていけない、流れに乗り遅れた中間層や低所得者層が不満を予想以上に溜め込んでいたことが投票行動に現れたのだろう。

 キャメロン政権はそこを見誤った。EU自身もここまでEUに対する強い不信感が広がっていたことに気付いていなかったともいえる。

前ロンドン市長のカリスマ性とポピュリズム

 しかし、目の前の不満に押された怒りの行動としてはあまりに代償が大きいといわざるをえない。EUが長年にわたって続けてきた統合への努力は、決してマイナスの面ばかりではなかったはずだ。それを度外視して、舞台を飛び降りるような決断は冷静さを欠いている。ポピュリズム的なムードや一時の感情に突き動かされて、イギリスはきわめて危険な選択を行ってしまった。

 ロンドンの金融関係者に聞いたところ、国民投票直前に行われた最後の討論会で、スピーカーの一人として登壇したボリス・ジョンソン前ロンドン市長が発する一言一言に聴衆が大歓声で応えている様子を見て、ジョンソン氏のカリスマ性を実感したという。離脱派の急先鋒であり、次期首相候補ともいえるジョンソン氏が繰り返し口にした「離脱に投票を!」「イギリスの独立の日」といったワンフレーズが、多くの人々の感情を刺激したことは確かだ。まさにポピュリズムの悪弊以外の何物でもない。


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