中国で体制内改革派の言論の砦として影響力を誇った月刊誌「炎黄春秋」の杜導正社長は7月17日、「停刊声明」を発表し、同誌を廃刊にする道を選んだ。同誌を主管する政府(文化省)系の「中国芸術研究院」が、一方的に社長や編集長を送り込み、人事権を剥奪、「基本的な編集・出版の条件を喪失した」(声明)のが原因だ。解任された杜氏は、「何もしないで生きながらえるより玉砕を選ぶ」と語り、同誌の栄光を残したまま自死する決意を示した。習近平指導部が、「真実を語る雑誌」として創刊以来25年間にわたり改革派から高い評価を得た炎黄春秋に対して下した「死刑宣告」ー。中国の改革派知識人はこう受け止めた。改革派知識人たちが「一つの時代の終わり」をどう迎え、独裁を強める権力とどう立ち向かっていくのか。習近平体制の下で理性をもって中国の前進を訴える「良識」はどんどん消されつつある。
歴史の真相と政治体制改革
1991年に創刊された炎黄春秋は、その独自の編集方針と、当局との特殊な関係のため、「中国において唯一の雑誌」と称され、発行部数も19万部に及んだ。学術誌としては異例の部数だ。筆者は4月、97年に同誌に入り、長く編集長として炎黄春秋の黄金期を築いた歴史学者・呉思氏(現・天則経済研究所理事長)に話を聞いた。
「炎黄春秋は、体制内の穏健な改革派の声です。我々の立場は、決して体制の反対者ではない。体制内で改革や改良を推し進め、その手法というのは、歴史が社会にもたらした誤りを改め、専制的な政治体制が引き起こした災難や困難を見つめることです。歴史の経験を総括し、民主化への道を進むということです」
炎黄春秋がこだわったテーマは、①反右派闘争、大躍進、文化大革命など、中国共産党体制の誤りがもたらした歴史の内幕と真相を明らかにする、②政治体制改革や憲政など中国が進むべき道を提示する、という点だ。
同誌では一貫して政治体制改革議論が盛んだった1980年代、最高指導部にいた胡耀邦、趙紫陽という開明的な両元共産党総書記に近い老幹部が中心メンバーとなった。93歳の杜導正・元国家新聞出版総署長(閣僚級)が社長に就任し、99歳の李鋭氏(毛沢東元秘書)、93歳の何方氏(元社会科学院日本研究所長)ら長老のほか、胡耀邦の長男・胡徳平氏ら「紅二代」(高級幹部子弟)が同誌を支えてきた。
杜氏は今回の停刊声明を受け、海外メディアのインタビューで「91年の創刊以降、共産党当局と16回にわたり大きな衝突があった」と明かした。しかし同誌は長老らの後ろ盾があり、何度も共産党中央宣伝部と摩擦を起こしても、そのたびに妥協しながら改革志向の論調を守り続けた。習指導部で宣伝・イデオロギーを統括する劉雲山政治局常務委員にとって杜氏は元上司に当たり、逆らえないという状況もあった。