─石庭の石は、動かされているという説もありますね。
重森 庭好きの住職ならば、毎日見ていると気になって、ある日こそっと変えることはあると思います。代々受け継がれる中で変化しても不思議はありません。
合原 ちょっとずつ変わりながら、しかし続いているわけですね。
重森 ところが祖父の重森三玲*14は、それは絶対に許されないと考えていました。自分の作品は永遠に重森三玲の作品として残ってほしい。だから、石しか使わず、極端にとがった庭が多い。そのお手本は龍安寺なので、石庭ほど最先端の庭はないという気もします。
ゆがみが生み出す「動き」
合原 私たち数理工学者は、世の中の、たとえば気象や生物や経済などのダイナミクス*15に興味があるので、変わるものが好きなんです。変化が目に見える庭には、恒常的な静けさは生まれないのでしょうか。
重森 確かに石庭は「静か」ですが、実は「動き」もあるんです。カメラマンの中田さん、いかがですか?
中田 龍安寺の庭は正面から撮るとゆがんで見えますよね。白砂の面が傾斜になっているような感じがします。
重森 雨水処理ですね。建物側に水が流れないよう、向こう側に傾斜をつけています。枯山水の庭は案外いいかげんで、ちょっと斜面があってもまあいいかでつくれるんです。わざわざ水平を計測しません。白砂をまいて砂紋を描けばごまかせてしまう。
中田 だから、静かに見ているというよりも、不安感もあり、動きも感じますね。
重森 土塀側に向かって傾斜していますよね。
合原 雨水処理という機能性があり、動揺や不安も与えるということは、それなりの動的刺激を見る者に与えているわけです。もし設計しているとすれば、とても面白い。静的な「動中の工夫」ですね。
中田 写真を撮影しているうちに構図がぴたっと決まるところがあって、正面や偉い人が座る位置から見ると、結局はそこが一番きれいに見える場所です。
*14 明治29年(1896)~昭和50年(1975)。作庭家。全国の庭園を実測して『日本庭園史図鑑』を刊行、作庭に革新的手法を導入し、庭園はもとより、いけばな、茶道など諸芸術に影響を及ぼした。代表作に東福寺本坊庭園、大徳寺瑞峯院庭園など
*15 時間と共に動的に変化する振る舞いを生み出す法則。物理学を超えて、最近ではさまざまな自然、生命、社会システムなども研究対象になっている