2024年12月3日(火)

オトナの教養 週末の一冊

2016年8月27日

 アメリカに住んでいた頃、娘が通っていた公立小学校の図書室で、長期の休み中に課題図書リストの中から10冊ほどの本を選んでそれぞれ感想文を提出したら、学校の隣の本屋さんで20ドル程度の本が買える図書券をもらえるという企画があった。全くの自由参加で、宿題ではなかったが、それでも娘は喜んでその企画に参加し、妻と一緒に本屋に読みたい本を買いに行って感想を書き、休みあけに「ごほうび」の図書券をもらっていた。図書券の「原資」は学校への寄付金などが充てられていたように記憶しているが、アメリカの学校は上手に子供のやる気を引き出す工夫をしているなと感じた。同時に日本の学校の現場での実践はなかなか難しいのだろうな、とも思った。

 子供の勉強の意欲をどう引き出すかというのは、世の中の多くの親や教育関係者に共通する悩みであり課題であろう。本書は昨年刊行された本であり、新刊ではないが、夏休みに書店に並んでいるのを見つけて手に取った。

科学的データに基づいた判断の重要性

『「学力」の経済学』(中室牧子 著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)

 冒頭に、「子どもを勉強させるためにご褒美で釣っていいか?」、「子どもをほめて育てるべきか?」、「ゲームは子どもに悪い影響があるか?」という問いがなされ、まず著者の見解が述べられる。その内容を今ここで明らかにしては本書を読む楽しみに影響するので、詳しくは本書を参照してほしいが、一見、常識としてとらえられていることが実はそうでないことも多いことが、本書に紹介された多くの事例から読み取れる。

 著者は「教育経済学者」という肩書きで本書をまとめている。教育を経済学の理論や手法を用いて分析することを目的としている応用経済学の一分野だという。スポーツでもそうだが、データを分析することにより、冷静に課題の所在やその解決方法を探る手法は、教育や子育てに関してもいえることであろう。科学的データに基づいた判断の重要性は、最近のオリンピックの選手強化策や獲得メダル数との関係を見れば明らかである。


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