2024年11月25日(月)

WEDGE REPORT

2016年9月13日

 11年末に国民党のラホイ政権が誕生してから再中央集権化はさらに強まり、カタルーニャ語による授業は必修時間の定めがない自由選択科目にされた。独自の言葉と文化を抹殺される寸前まで追い込まれたカタルーニャは、フランコ独裁の亡霊を見た。スコットランドと同じように独立住民投票を行おうとしたところ、憲法裁は「住民投票は国の専権事項」として停止命令を出した。そのため非公式の投票が14年11月に行われ、80%強が独立に賛成した。しかしカタルーニャ自治州のマス前首相ら3人が投票を止めなかったとして起訴されたのだ。

2015年のカタルーニャ自治州議会選挙で勝利宣言した分離独立派
(写真・AGENCIA EFE/AFLO)

徴税権なく公共投資も抑制
不満募るカタルーニャ

 租税と配分をめぐってもカタルーニャは虐げられている。バスクやナバラには認められている徴税権がなく、公共投資も抑えられている。インフラ投資に詳しいコンサルタント、デービッド・マルキーナさん(43)は、かつてはマドリードとバルセロナは合意できると信じていたが、今は独立派だ。「中央政府は、バルセロナを通ってフランス、イタリアの地中海沿いを走る高速鉄道網の整備に反対している。ピレネー山脈を貫く中央ルートを進めたいが、ローマ時代に築かれた地中海回廊に建設した方が理にかなっている」。

 海外向けにカタルーニャ独立をPRする機関DIPLOCATのアルベルト・ロヨ事務局長も「カタルーニャは徴税権の90~95%を中央政府に握られ、港湾施設も鉄道も十分な投資を受けていない」と指摘する。

 独立運動が急激に盛り上がった発端は、国民党がスペイン・ナショナリズムを煽って票を集めたことだ。中央政府が再中央集権化を強行すればするほど、カタルーニャは独立への動きを一段と加速させるだろう。政治もメディアも独立をめぐるオール・オア・ナッシングの二元論に陥り、単純化され、誇張されたメッセージだけが繰り返し流される。自治権の拡大や連邦制の導入といった現実的な議論は完全に隅に追いやられた。スコットランド、カタルーニャ、そして英国やスペイン、EUを巻き込んだ政治的な駆け引きは激しさを増している。

 「カタルーニャ自治州が一方的に独立することはもはや否定できないシナリオだ。独立問題はパーフェクト・ストーム(完全な嵐)に巻き込まれている」。シンクタンク・欧州外交評議会(ECFR)マドリード事務所のボルハ・ラセラ所長は声を落とした。

 日本では、英国のEU離脱が大きく報じられたが、それはあくまで数ある火種の一つに過ぎない。他の火種も現在進行形で燃え上がり始めている。

  
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◆Wedge2016年9月号より

 


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