2024年11月23日(土)

World Energy Watch

2017年2月16日

 マスクの事業は、EV、太陽光発電、宇宙産業だが、全て政府の規制・補助制度と大きく関係している。EVについては燃費規制に加え、連邦政府の税額控除(7500ドル上限)による支援制度も販売に大きく影響するはずだ。太陽光発電導入には連邦の投資税額控除制度が影響を与える。マスクのスペースXは2015年にロケット打ち上げに失敗し、ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると同年に2億6000万ドルの損失を被っているが、スペースXの今後を左右するのは米国政府だ。

 NASA(航空宇宙局)の方針は新たな長官が決定することになるが、大きな方針を立てるため政権はペンス副大統領の下宇宙関係の委員会を組織する予定とされている。報道ではトランプ政権はNASAの最優先課題を官民合同の投資による宇宙開発促進に置いているとされている。ロケット打ち上げ失敗後の後遺症に悩むスペースXにとっては、大きなビジネスにつながる可能性が高い。

マスクと炭素税

 戦略・政策フォーラムに参加している18名のCEOの1人、自動車配車サービス・ウーバーのカラニックCEOは、イスラム圏7カ国からの入国制限の大統領令に反対するグループからウーバーアプリを削除するキャンペーンによる攻撃を受けフォーラムを辞任した。

 ウーバーは、カラニックCEOがフォーラムに参加したことにより、サービスを受けるアプリの削除が相次ぎ、ドライバー、顧客ともに競合相手に移っていたが、大統領による入国制限が決定打になったようだ。マスクもフォーラムに参加したことにより批判を受けているが、マスクは大統領に直接意見を述べることが大切として、このフォーラムを辞任する素振りも見せない。

 入国制限の大統領令については、IT企業を中心に100社近くの経営者が署名した「大統領令は違憲である」との法廷意見書が2月5日に裁判所に出されたが、南アフリカ生まれにもかかわらずマスクは多少逡巡したとみえ、他の経営者が署名した後1日遅れで書名した。

 マスクはフォーラムに参加したことにより批判を浴びたが、元エクソン・モービルCEOのティラーソン国務長官がすばらしい長官になる可能性があると称賛したことでも批判を浴びている。ティラーソン長官が炭素税導入に前向きであることをマスクは評価したものだ。また、フォーラムの席上でも炭素税導入を持ち出したが、大統領を含め誰も興味を示さなかったと報道されている。

 マスクが炭素税導入に積極的なのは、二酸化炭素を排出するガソリン車は走行距離に応じ炭素税を支払う必要があり、EVが相対的に有利になるからに他ならない。炭素税については、大統領選時の共和党政策綱領で否定されていたが、2月上旬にジェイムズ・ベーカー元国務・財務長官、グレゴリー・マンキュー元大統領経済諮問委員会委員長などの共和党の重鎮が、税制中立の炭素税導入をホワイトハウスに対し提案した。

 ベーカー元長官は、「温暖化が人為的原因でどの程度引き起こされているのかわからないが、リスクは大きく保険を掛ける必要がある。炭素税は保険として適している」と述べ(温暖化と保険の関係については私の研究所のホームページをご覧ください『温暖化とイスラム国は同じ脅威なのか』)、オバマ政権の温暖化対策を止める代わりに二酸化炭素トン当たり40ドルの炭素税を提案している。炭素税分を各家庭に還元すると4人家族で年2000ドルが還付されるとしている。化石燃料、特に石炭支援を打ち出しているトランプ政権が、化石燃料の競争力を阻害する炭素税導入を取り上げることは考えられないので、マスクの望みが通る可能性はないだろう。

アメリカ・ファーストとマイ・ビジネス・ファースト

 トランプ大統領は「アメリカ・ファースト」と常に述べているが、政権に近づき政府の規制・補助制度の影響を大きく受ける自分の事業に有利な政策を導入しようとしているように見えるマスクは、あたかも「マイ・ビジネス・ファースト」と考えているようだ。

 経営者としては当然の考えとも思えるが、ウーバーが消費者によりボイコットされたように、テスラがボイコット対象にならない保証はない。マスクは政権から得る利益が大きいと考えているようだが、消費者の力はさらに大きいかもしれない。

  
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