非行に走ってしまうケースでは、いじめを受けていながらも、家庭環境が不安定であったり、親子関係に不和が生じていたり、もともと居場所がなかったりして親に相談ができない。学校でも相談できる先生や相手がいない。そんな状態が長い間続くと逃げ場を失って学校にも行けなくなります。反動で強いものへ憧れ、自分が逆の立場に立てばいじめられないとか、一目置かれるんじゃないかという思いが強くなっていくのでしょう。また、大人や社会への不信感も募らせていきます。
強い子たちではなく、精神的にダメージを受けている子たちが犯罪を犯すという意味では、少年犯罪に対するイメージが少し変わったかもしれません。その現実と向き合って感じることは、いじめられている子に対して、先生たちが声を掛けていれば、その子は救われて、変わっていたかもしれないということです。
いじめはその子の将来に大きな影響を与えてしまいますので、周囲の大人たちは放置してはいけないということです。
――いじめ以外のケースには何がありますか?
吉田:兄弟の中に病気がちな人がいて、母親がその子に掛かり切りになって常に孤独感を抱えていたところに、父親代わりの祖父の死が重なって現実から逃げ出したくなった……というケースがありました。
その子の場合は、母親からいつも置き去りにされているという思いが強かったようで、祖父の存在が心の拠り所だったようです。
孤独感の裏返しで強がりを見せたり、見栄を張ったりしているうちに非行に走ってしまった。ここに来るまでの間に、あっちにぶつかり、こっちにぶつかって、そのあとに市原学園に来ていますので非行のきっかけは様々です。私たちの仕事はその一つひとつを探っていきながら、その子の理解を深めていくことにあります。
――日々の教育プログラムの他に季節ごとに、親子交流会、納涼会、クリスマス会、成人式など保護者や外部の団体や講師が関わる行事がありますが、その意義や在院生の変化などについてお聞かせ下さい。特に親子交流会では、母親をおんぶしたり、手をつないだりする機会が多かったようですが。
吉田:秋の親子交流会では親子が組んでバドミントンの試合をしました。その移動の際におんぶしたり手を繋いで触れ合う機会を作ったのですが、「昔もこんなことがあったね」と言って笑って会話をしている場面を見ました。それまでは手紙も書きたくないと言っていた子が、「こんな俺のことでも、母親は変わらずに見てくれていたんだ」と親子交流会のあとは自分から進んで手紙を書くようになったり、親への感謝の言葉を口にするように変わっていきます。
保護者の方も、ここに来たときよりも子どもたちが明るい表情をしていることに安心するようです。