農林水産省の出す野生鳥獣による農作物被害額は年間200億円前後だが、実態はその数倍といわれる。とくに多いのがシカによる食害だ。推定生息数はニホンジカ305万頭(本州以南)、エゾジカ57万頭(いずれも2013年)。この数字はイノシシの4倍強だ。
国は生息数を23年までに半減させる目標を立てたが、駆除した個体の有効利用が課題になってきた。毛皮や角の商品化もあるが、やはり中心は食肉だろう。
シカ肉は高タンパク低脂肪、鉄分が多くて栄養価が高いと謳(うた)われる。シカ肉流通量の統計はないが、鳥獣処理加工施設(シカ以外も含む)は、把握されているだけで08年の42カ所から15年の172カ所に増えた。
丹波姫もみじは、柳川瀬社長が06年に立ち上げた。補助金は使わなかったという。初年度の処理頭数は約400頭。売り物になりそうなシカのみを選び、自治体から支給される有害駆除報償金と合わせて1頭5000円で買い取っていた。5年前に丹波市から求められて獣害駆除のシカをすべて受け入れ始め、急拡大した。また営業を重ねてシカ肉を扱う料理店なども増やしてきた。
しかし利益はほとんど出ないという。買い取りも打ち切り、今ハンターに渡すのは割り増しされた報償金(7000円)だけだ。柳川瀬社長は、シカ肉がビジネスとして難しい理由を語る。
「シカは売り物になる肉が少ないんですよ。重量でみるとだいたい肉と内蔵、骨・皮・角が3分の1ずつ。その肉もおいしくて売り物になるのは背ロースとモモ肉ぐらい。肉質が良いのはさらに少ない。計測したところ、全体の15%程度でした。だから肉の注文が増えても十分に供給できないのです」
背ロース肉は100グラム当たり700円前後で取引されるが、これ以上値を上げるのは難しいという。
また肉質はシカの捕獲方法に左右される。銃猟の場合は頭か首を撃ち抜かねば使えない。銃弾が肉はもちろん内臓に当たると、大腸菌が飛び散るため食用できなくなる。
ワナ猟も、かかったらすぐに仕留めないと暴れて打ち身になり鬱血したり、体温が上がって「蒸れ肉」になる。すると臭みが強くて食べられなくなるという。しかしハンターによってはワナにかかって数日経ったシカを持ち込むこともある。報償金目当ての猟だと、肉質を気にしないからだ。