「それができたのは、徹底的に話し合い、お互いの立場を理解した顔の見える関係を築いたからです。肉の買取価格は決して高くはないのですが、安定的に購入する我々を信じて回してくれます。私もシカの解体に参加することもあります」(川森部長)
CoCo壱番屋は、北海道や長野県、三重県などでシカ肉をメニューに加える店舗を増やした。ただ常時メニューにあるのは滋賀県だけだ。やはり安定供給が課題なのだろう。またアドバンスもシカ肉カレーだけでは赤字だという。それでも続けるのは、ジビエの普及が中山間地の状況改善の一助になればという思いからである。
狩猟のプロ集団が狙うジビエ調達と有害駆除
まったく違うアプローチでジビエ・ビジネスに挑むのは、TSJ(奈良市)だ。仲村篤志社長は、獣害対策のプロとして、食肉加工施設の建設とシカ肉販売を狙う。
「もともと雑貨の企画や販売などを手がけていますが、新規事業を考えた際に、ふと他社が容易に参入できない分野として有害鳥獣捕獲事業が頭に浮かびました。祖父と父が猟師だったことも影響したのかもしれません」
どこの地域でも有害駆除を担うのは、主に猟友会だ。しかし高齢化が進むだけでなく、基本的に趣味の団体であるだけにジビエ・ビジネスには向かない事情も抱える。だから有害駆除を行なうプロ集団が必要だと考えた。
そこで猟期は毎日一人で山に入り、4カ月で43頭仕留めたという。腕を磨くだけでなく、シカの行動パターンを徹底的に学習した。確実に駆除できる実力を身につけるためだ。奈良県の認定鳥獣捕獲等事業者となり、優秀なハンターを集めつつ養成講座も開いている。現在12人を確保したという。
「事業としては各自治体と契約して行う予定です。ただ駆除だけでなく、食肉処理施設を運営して雇用などで地元に寄与します。連動すれば肉質を高め量も確保できます。ただ試算すると、年間700頭を駆除して肉を販売しても収入は300万円程度。経費は633万円を超えて、完全に赤字でした」
だから有害駆除報償金に加えて獣害対策の指導やハンター養成など、地域と連携した経営を自治体に提案している。現在、奈良県内の自治体と話を進めているところだ。
ジビエの最前線を追うと、シカ肉が人気を呼べば獣害の元であるシカの駆除も進む、というほど単純ではないことが浮かび上がる。ジビエを獲得するための猟ならばハンターとは綿密な連携を組み「質」と「量」を維持しないと無理だろう。獣害対策ならば、ジビエと切り離して地域を上げた取り組みが必要となる。
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