獣肉の「生食」は絶対にダメ!
食中毒の予防はきわめてシンプルだ。肥満症などのように「長年の食習慣の積み重ねであるがゆえに一朝一夕にはどうにもならない」というわけではない。細菌の場合は「つけない」「増やさない」「やっつける」の3原則を徹底すればよい(ウイルスの場合は「生物」ではないので「持ち込まない」「広げない」「つけない」「やっつける」と少しややこしくなる)。
さらには、食中毒を予防するために、食品の購入から摂食までに気をつけたい「6つのポイント」というものも提供されてある【※2】。これらは、主として、家事を預かる人向けの注意事項。きわめて重要なポイントだが、ここではとりわけビジネスパーソンが陥りやすい点に絞ってお伝えしたい。
まずは何といっても「生食」を避けることだ。細菌は「生物」なので十分な加熱(75度で1分以上)によって殺すことが最大の「無害化対策」だ。日本には刺身という、世界でもまれにしかない食文化があるが、加熱をしていない「生食」が食中毒の最大のリスクであることには変わりがない。魚介類を生で食する刺身は、生産から喫食まで、きわめて高度な知識と技術に裏打ちされた経験者によって、はじめて(比較的)安全に食べられる食文化だ。教育や経験が十分ではない臨時従業員が提供する「生もの」はけっして安全ではないことを肝に銘じよう。
牛肉の生食を法律で禁じたときに「食文化を法律で規制すべきではない。個人の責任において食べられるようにすべきだ」という意見もあったが、そもそも日本には「獣肉を生で食べる食文化」が定着しているわけではない。そのことよりも、O-157などという命に関わる食中毒予防を法律で定めるのは当然であろう。肉(筋肉)よりもさらに危険性の高い内臓類(レバーなど)を生食するなどは、論外である。
牛の生食を規制すると、法律では規制されていない豚や鶏の生肉を食べたりする人がいるようだが、これらもけっして安全だというわけではないので、避けるほうが賢明。
魚介類の「生」にも厳重に注意
魚の生食、つまり刺身はどうだろうか? 前述したように、たしかに日本には魚を生で食べる食文化があり、そのための知識や技術が蓄積されてある。しかし、外食産業や流通産業の形態が大きく発展・変化したために、魚介類の生食にも(新しい?)リスクが生じてきた。生産地でしか食べられてこなかった魚介類が、はるか遠くの大都会でも提供されるようになると、食品中の細菌類が増殖して食中毒の可能性が高まることは十分に考えられる。
また、生産地とは異なる食べ方をすることによっても食中毒のリスクが増すケースもある。たとえば、ホタルイカは寄生虫の食中毒が知られているため、地元では生で食べることがほとんどないのだが、「生食嗜好」が強い東京地区では生で提供されることが少なくない。「うちのホタルイカは新鮮だから」という言葉に釣られてたくさん食べると、寄生虫に当たる可能性も高くなる。生きているホタルイカにも寄生虫はいる。