最近、アニサキスという寄生虫の食中毒報道が増えてきた。サケやイカなどに寄生することが知られている。十分な加熱や冷凍、あるいは包丁などで切ってしまえばほぼ死滅する。北海道でイカの刺身をイカソーメンと呼ばれるくらいに細く切るのはアニサキス対策の知恵だと考えられている。同様に北海道では、サケの刺身もルイベと呼ばれる冷凍ものしか食べない。
都会のサケの刺身も解凍もの(つまりはいったん冷凍ずみ)のはずなので大丈夫ではあろうが、客の中には「サケは刺身で食べてもOKなんだ」と誤解する人も出てくるだろう。ちなみにアニサキスなどの寄生虫は、わさびや酢などでは死なないので、これらは予防対策にはならない。
貝類、とりわけ生食することの多いカキにも気をつけたい。市販されているカキには「生食用」と「加熱用」がある。勘違いをしている人があるようだが、この両者は「鮮度の差」ではない。「細菌数の差」である(より正確にいうと、大腸菌数が一定数以下の海域で生育したカキが「生食用」)。なので、いくら鮮度がよくても「生食用」と書いてないものは必ず加熱して食べる必要がある。極端な話、海に遊びに行って、潜って岩ガキを見つけて採取したとする(違反だが)。これは細菌数が不明なので、とれたてだからといって生食してはいけない。
さらにいうと、「生食用」のカキは細菌数は少ないが、ウイルスを持っていないという保証はない。生食用であっても、たとえばノロウイルスを保持しているために食中毒を起こす可能性もある。「それじゃ、生ガキは食べられないじゃないか!」と憤慨する御仁もおられようが、「ごくごく少量にしましょう」とお答えするしかない。ちなみに私は、生ガキは大きなものなら1つ、小さなものでも3つ以上は食べない(この数値に科学的根拠はない)。
食中毒予防の基本は「加熱して食べる」こと
冒頭に書いたように、食中毒の「重篤な被害者」は子供・高齢者・病人に多い。健康な成人は食中毒患者とはなっても、大事には至らないことが多い(体調が悪かったり、原因によっては大事に至ることもあるが)。なので、【※1】や【※2】にあるような食中毒予防対策を律儀に実行するのは、現実的ではなかろう(もちろんやるに越したことはない)。
健康な成人でなおかつ多忙なビジネスパーソンといえども「これだけは気をつけてほしい」というのが生食を避けることである。生食をしたからといって必ずしも食中毒になるわけではないが、「いたずらに生食をするという食習慣」が身についてしまうと、体調がよろしくないときにもついつい生食をしてしまって大事に至るリスクが高まる。
本人が健康体であるために、食中毒の原因となる細菌やウイルスを持っていても症状が出ないこともある(無症状キャリアという)のだが、子供や高齢者や病人にうつしてしまうこともある。また親の食習慣は「生食」に限らず子供に強く影響するので、判断力を持たない子供が平気で「生食をする」ようになる危険性もある。
食べ物は「基本的に加熱」して食べる、という習慣を身につけたい。
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