1981年から2002年まで放映されたTVドラマ「北の国から」をまったく知らない人はあまりいないだろう。詳しいストーリーは知らなくても、田中邦衛さん演じる五郎や、吉岡秀隆さん演じる純の、きわめて特徴的なしゃべり方をパッと思い浮かべられる人は多いのではないか。そんな国民的ドラマ「北の国から」を題材に、戦後の日本社会の歩みを読み解こうとする書籍『「北の国から」で読む日本社会』(日経プレミアシリーズ)が2017年11月に刊行された。筆者である日本総合研究所の上席主任研究員・藤波匠さんに話を伺った。
――2017年というこのタイミングで書かれたことに、なにか特別な意味はあるのでしょうか?
「消費」や「所有」に豊かさを感じてきた団塊の世代が、今まさに日本社会の第一線から退場していこうとしています。一方で、シェアリングやミニマリストという言葉に代表されるように、これからの日本社会を担っていく若い世代は、お金やモノよりも精神的な豊かさを重視する方向にシフトしてきています。社会の価値観が大きく変わろうとするこのタイミングで、本書はひとつの羅針盤の役割を担えるのではないかと考えています。
たとえば、日本の地域社会には「結」や「もやい」のように、お金を介さないやり取りを大事にする文化がもともと備わっています。五郎さんのようにお金やモノに縛られず、人と人とのつながりを大切にしながら自分の責任をしっかりと果たして生きていく。そんな生き方がこれからの日本人のスタンダードになっていくのかもしれません。大量生産・大量消費によって経済を大きくしていくやり方が限界を迎えつつある今、日本人の意識がようやく五郎さんに追いついてきたと言えるのではないでしょうか。
私自身はエコノミストなのでもちろん経済合理性を重視しますが、それだけを追及してしまうと、のちのち振り返ったときに「あれは失敗だった」と思うこともきっとあると思うんです。人が人として暮らしていくには経済合理性だけで判断してはいけない部分もきっとあるはずで、そういうものを本書から感じ取っていただけたら幸いです。