Wedge REPORT

2018年12月27日

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――「仮想」だからこそできることは他にもありますか。

廣瀬:実空間にあるものを仮想空間の中に作り出すのと全く逆の流れで、実空間にないものを仮想空間の中に作り出すことも可能です。

土居:その発想はまさに経済学でも共通するものです。経済学では、ある政策を実行した場合にどういう経済効果が起こるのかについて、数理モデルを解いて結果を導き出します。数式自体は二次元でも頭の中にはそれ以上の変数があります。共通言語で政策効果を語り合うときは互いに頭の中に同じものをイメージする努力が必要ですが、VRを使えば経済効果がどういうプロセスでどう波及するかのシミュレーションを目の前で共有しながら議論できるようになるかもしれません。

廣瀬:それは「思考の外化」と言えます。これまでのシミュレーションといえば、すでに計算された結果を人間に分かりやすく伝えるだけの存在でしたが、VRではそれにインタラクティブ(双方向性)な要素が加わります。頭の中で考えたイメージを何度でもすぐに修正できます。こうした技術は、技術設計やデザイナーなど、頭の中のイメージを擦り合わせるような仕事を行う人にとっては革命的なツールとなるでしょう。

――VRの活用が広がっていく上で危険性はありますか。

廣瀬:仮想空間への没入感の高さや、視力への影響、過激なコンテンツによる心身への影響、倫理的問題など、懸念はいろいろと指摘されています。また、アバターのように、人間が「生身ではない体」を持ったときにどうなるか、詳しいことまではまだ分かっていません。VR機器が廉価になり、利用が拡大したことで、マイナス面について考えるタイミングが来ているのかもしれません。

土居:確かに懸念はいくつかありますが、暴力的なテレビゲームなど、これまでも同じような問題は存在しています。重要なのは、VRがあってもなくても、そういった問題をどう規制し、どう乗り越えるのかを考え続けることではないでしょうか。VRだからダメというような考えは、新たな可能性の芽を摘みかねません。

――ITのさらなる進歩で、VRを含め仮想技術はこの先どう変わっていくでしょうか。

廣瀬:ウェアラブルコンピューターブームが起きた2000年当時、コンピューターを背負ったり装着したりする検討がされていましたが、今では誰のポケットにも小型で高性能のコンピューターが入っています。技術の進歩は容易に想像を超えます。

 

 直近では、HMDの中にセンサーを入れ、装着者の視点の動きを捉えるアイトラッキング技術の研究が進んでいます。これを活用し、人が見ている方向だけ解像度を上げる技術を高めれば、さらに小型で廉価な機器ができ、将来的にHMDが通常の眼鏡のようになるかもしれません。

 
 
 
 
 
 

 また、視点の動きに沿って効果的に広告を見せるなど、他の用途にも応用が可能です。もっと先の未来では、シール状の電極を頭に貼ると、視覚と連動して脳に電気信号を発して仮想現実を見せられるようになるかもしれません。

土居:個人的には、英語でプレゼンをするときに、次に話すべき英文が勝手に目の前に出てくる眼鏡が欲しいです(笑)。新しい技術は人々の経済活動をより便利なものにしていきます。仮想技術が、少子化や増え続ける社会保障費など閉塞的な空気が漂う日本を変えるきっかけとなることに期待したいです。

 

写真・井上智幸 NORIYUKI INOUE

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