2023年2月6日(月)

立花聡の「世界ビジネス見聞録」

2019年7月6日

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立花 聡 (たちばな・さとし)

エリス・コンサルティング代表・法学博士

1964年生まれ。早稲田大学理工学部卒。LIXIL(当時トステム)東京本社勤務を経て、英ロイター通信社に入社。1994年から6年間、ロイター中国・東アジア日系市場統括マネージャーとして、上海と香港に駐在。2000年ロイター退職後、エリス・コンサルティングを創設、代表兼首席コンサルタントを務め、現在に至る。法学博士、経営学修士(MBA)。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。

 

金正恩の「実務」とは?

 ハノイ会談で失敗を喫した金正恩は憂鬱な日々を過ごしていた。このままだと、また棍棒を振り回し出すかもしれないから、アメとムチの併用で気分を晴らす必要がある。そこで、板門店で会おうよとトランプが声をかける。「ショー」と言えば、ショーなのかもしれないが、政治にはこのような実務に即した「エンターテイメント」が欠かせない。

 板門店でトランプと握手する金正恩の笑顔はすべてを証明した。

 板門店の電撃会談に先立ち、朝鮮労働党中央委員会の機関紙・労働新聞(ノドンシンムン)は6月23日という早い段階で、「敬愛する最高指導者・金正恩同志宛に米大統領から親書」と題した記事を掲載し、「敬愛する最高指導者同志はトランプ大統領の親書をお読みになり、トランプ大統領の政治的判断力と大きな包容力に謝意を表しながらも、興味深い内容について真剣に検討すると仰った」と報じた。

 これは板門店会談へのお誘いを何らかの形で示唆するもの、あるいは新たな交渉条件を提示したオファーと認識すべきだろう。

 さらに板門店会談後、7月1日付けの同新聞の記事を一部抜粋抄訳する――。

 「最高指導者・金正恩同志は6月30日午後、ドナルド・トランプアメリカ合衆国大統領の要請を受け入れ、板門店で歴史的な対面を果たした。1953年停戦協定以降66年ぶりに、両国の首脳が分断の象徴であった板門店で歴史的な握手を交わした。……敬愛する最高指導者同志はトランプ大統領と120余日ぶりの再会で挨拶を交わしながら、大統領を案内して板門店の軍事境界線を越え、北側に踏み入れた。我々の領土を踏む歴史的な瞬間であった」

 「敵対と対決の産物である軍事境界線の非武装地帯で北南朝鮮と米国の首脳が分断の線を自由に行き来、対面する歴史的な場面は、世界に大きな衝撃を与えた。長年の不信と誤解、対立と反目の歴史に秘めたこの板門店の地において、和解と平和の新たな歴史が幕開けしたことが示された」

 「朝鮮半島の緊張緩和、朝米二国間の関係正常化にかかわる諸問題を解決するに当たり、課題の確認が行われ、相互理解と共感が得られた。……両国首脳は、今後も緊密に連携していき、朝鮮半島の非核化と朝米関係の正常化に向け建設的な対話を再開し、積極的に推進することに合意した」

 「(板門店会談は)ひとえに敬愛する最高指導者同志とトランプ大統領の素晴らしい親交関係があってこその出来事であった。わずか1日で、このような劇的な会談が実現できたことを見る限り、今後も両首脳の親交は、第三者が予想できぬ良き結果を生み出し、あらゆる難関や障害を克服する神秘的なパワーとして機能し続けるであろう」

 これ以上の解説は不要だろう。板門店会談は、金正恩の国内向けのショーとして絶大な効果をもたらし、金政権の正統性を裏付ける確固たるエビデンスとなったことは明白である。これによって金正恩がこれからしばらくの間、ミサイル打ち上げや核実験に踏み切る可能性はほぼゼロになったと見ていいだろう。これは「ショー」の「実務的」効果と言えよう。


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