富裕層への締め付けを強めるインド政府
さて、話をシッダールタ氏の自殺の原因に戻そう。
前述の遺書にもあったように、彼はその自殺の原因をPEファンドからの株式買戻しの圧力に加えて、税務当局からの嫌がらせが原因だと主張していた。
税務当局の指摘によると、シッダールタ氏は2017年に個人と会社であわせて48億ルピーの所得隠しを行っており、ペナルティや利息をあわせ63億ルピーの支払い義務があるとのことであった。
最高税率が30%のインドで48億の所得隠しでどうして63億ルピーの税額が発生するのかという疑問が生じるが、それは主にペナルティが原因である。インドでは追徴課税になった場合、月利1.5%年利18%の利息が取られるのだが、それに加えて税額の100%~300%のペナルティが課せられることがある。さすがに300%は「極度に悪質」とみなされた場合のみだが、インド税務当局が最も嫌う「所得の意図的な海外移転」や「資産を海外に隠す」などの場合には適用されることもある。
従ってシッダールタ氏の場合の48億の所得に対して63億の課税という数字から、彼の所得の一部が「悪質」とみなされ、かなり大きなペナルティが課せられたのではないかと推察される。このあたりは税務当局の裁量の範囲であるため、シッダールタ氏が言う「嫌がらせ」のうちの一つがこのペナルティであることは容易に想像がつく。
また、先月7月5日に発表されたインド新予算案で、富裕層の個人所得税にかかる課徴金いわゆる「サーチャージ」がさらに重くなることが決定した。対象となるのは年課税所得2000万ルピー(日本円で3200万円)以上と、インドではかなり上位の富裕層のみであるが、このサーチャージはこの10年程で徐々に負担が増え続けており、シッダールタ氏ではなくともインドの富裕層の不満は溜まる一方だ。
この富裕層への課税強化は、明らかに選挙での人気とりに走るポピュリズムの結果とも言え、所得がある人のうち2~3%しか正しく納税していないというインドの歪な歳入構造の原因となっている。