チャイナ・ウォッチャーの視点

2019年8月20日

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樋泉克夫 (ひずみ・かつお)

愛知県立大学名誉教授

中央大学法学部、香港中文大学新亜研究所、中央大学大学院博士後期課程を経て外務省専門調査員として在タイ日本国大使館勤務。著書に『華僑コネクション』『京劇と中国人』『華僑烈々―大中華圏を動かす覇者たち―』(以上、新潮社刊)など。

[著書]

香港の混乱を解くカギ

 こう歴史を振り返り考えるなら、今回の香港の混乱を解くカギは、「強者の意思」と「土地の者」にあるとも思える。

 現在の香港をザックリと表現するなら、政治(中央政府+香港政府)、経済(巨大不動産開発業者を中心とする大企業家)、それに民意(一般住民)の3者によって成り立っている。だが、この3者の利害が一致することはなかったし、これからもないだろう。そこに問題の芽が潜んでいる。

 「地産覇権」「財閥治港」で象徴されるように、返還されて以後も、いや返還以後はより顕著になったが、「一国両制」の下で手を組んだ政治と経済による「強者の意思」が特区政府を動かしてきた。それというのも、彼らは香港に“金の卵を産む鶏”を演じ続けさせたいからだ。当然のように「土地の者」が示す民意に対する政策優先順位は後回しにされがちだ。

 加えるに「土地の人」にも階層分化が見られるようになってきた。返還以前からの住民と返還以後に中国から流入してきた者だ。移住の時期に違いはあっても、一攫千金の夢と政治的自由という香港への移住の動機に大差はないはずだが、現状では両者の間の共存共栄は容易ではささそうだ。また「強者の意思」と「土地の者」の間にも妥協点は見つかってはいない。

 香港が“金の卵を産む鶏”を演じ続けようとする限り、政治と経済と民意とが同一歩調を採ることはないだろう。ここに香港が抱え続ける根本矛盾が潜んでいるのだ。

 こう考えた時、今回の混乱が政治と経済と民意の3者の利害が一致する形で円満解決することは至難だろう。だが、いずれかの時点で事態は沈静化させなければならない。異常事態を長引かせたら、返還前に欧米が危惧した「香港の死」に行き着くしかないからだ。返還は「香港の死」を招くという欧米からの批判を避けるために、鄧小平は「香港の繁栄の維持」「50年不変」を内外に約束したのである。

 やがて若者が興奮から醒め、「地産覇権」「財閥治港」で形容される香港社会の基本構造に本格的にメスを入れようする動きが起きた時、特別行政区としての香港に変化の気配が訪れるだろう。だが歴史が物語っているように、「土地の者」だけでは香港の変化はもたらされそうにない。

 “金の卵を産む鶏”を求める限り、香港の悲哀は続く。

  
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