「自由」と「民主主義」の価値
新生南アフリカが、アフリカ最大の経済大国として歩み始めるのを見届け、マンデラは2013年に95歳で亡くなった。
李登輝はまだ健在ながら、まもなく97歳を迎えようとしている。いま現在、台湾も南アフリカも、人種によって差別されたり、政治的主張によって政治犯として捕らえられる恐れもなくなった。両国とも完全な自由かつ民主主義国家として今も歩みを進めている。
しかしその陰には、白色テロの時代のなか、国民党から身を守るため親友の家の倉庫の二階に匿ってもらった李登輝や、27年もの間、獄に繋がれたマンデラといった先人たちの、我々には想像もつかない、途方も無い時間を費やした努力と幾多の犠牲が存在する。
我々は、いつしか毎日を送るなかで、この自由や民主主義というものが、天から降ってきたかのような、ごくごく当たり前のものだというように勘違いしていやしないだろうか。私たちに課せられた責務は、この自由や民主主義といった至高の価値観の重要さを再認識し、いかにして維持していくかを今一度考えることではないだろうか。
以前の原稿にも書いたが、私はもともと、家族や親戚にも台湾と縁があったわけではないし、商売などで台湾と行き来しているわけでもなかった。ほんの偶然の旅行が発端となり、たくさんの縁をもらい、その後、台湾で学ぶ機会を得て、李登輝の側に仕える幸運をもらった。
1995年当時、ラグビーに熱中するばかりの高校生だった私は、テレビ越しにマンデラが優勝カップを高々と掲げ、勝利した南アフリカ代表チーム「スプリングボクス」に授与する光景をこの目で見ている。
台湾の李登輝と南アフリカのマンデラ。一見、なんの繋がりもないような両者だが、あたかも不規則にバウンドした楕円球の軌跡のごとく、私の人生のなかで一本の線のように繋がった一幕だった。
1977年栃木県足利市生まれで現在、台湾台北市在住。早稲田大学人間科学部卒業。大学卒業後は、金美齢事務所の秘書として活動。その後、台湾大学法律系(法学部)へ留学。台湾大学在学中に3度の李登輝訪日団スタッフを務めるなどして、メディア対応や撮影スタッフとして、李登輝チームの一員として活動。2012年より李登輝より指名を受け、李登輝総統事務所の秘書として働く。
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