世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年10月23日

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 8月にインド議会は突然憲法を改正し、ジャンムー・カシミールを自治州から中央政府が管理する領土に格下げした。それ以来、インド当局が、抗議を阻止するために政治家、実業家、活動家、ジャーナリストなど約2,000人の著名なカシミール人を拘束している。彼らは、起訴されることもなく、拘束され続けている。州の主要な人口中心地であるカシミール渓谷の700万の住民は、携帯電話とインターネットを遮断され、移動は困難で、州への出入りは当局の許可が必要である。

chelovek/champc/Martin Holverda/iStock / Getty Images Plus

 モディ首相のインド人民党(BJP)政権がそういう行動をするのは驚きではない。今年4月の国政選挙でBJPは圧勝したが、その前に発表したマニフェストで、カシミールの特別な地位の廃止を呼び掛けていた。カシミール州はイスラム教徒が多数派であるインドで唯一の州である。ヒンドゥー民族主義のBJPはイスラム教徒のいかなる特権をも嫌う。BJPはまた、カシミールの領有権を争っている相手の一つであるパキスタンへの反発がある。モディ首相とBJP指導部は、カシミールを巡り、敵に立ち向かうことを躊躇しない断固たるナショナリストぶりを示す機会としてきた。

 しかし、インド裁判所がカシミールでの問題に沈黙しているのは驚くべきことと言える。カシミールで起こっている多くの明らかな権力濫用に、彼らは沈黙したままである。デリーの最高裁判所長官は、忙しすぎて、カシミールでの政府の行動に関連するすべての案件を聴取することはできないと述べ、問題を最高裁判所の他の部局に回すなどしている。

 10月5日付のエコノミスト誌の記事’ The courts’ refusal to curb repression in Kashmir’は、「モディの権威主義的本能はカシミールだけにとどまらない。裁判所が彼を許し続けるならば、彼は間違いなくBJPの明白な目標に従ってインドを再構築し続けるだろう」「カシミールでの出来事は、政府がその行動に対する抵抗を抑えるために、インド人の公民権を踏みにじる準備ができていることを示している。もし最高裁判所が今日それから目をそらすなら、誰が政府を抑止しうるのか」と、厳しく批判している。

 インドは、日米の「自由で開かれた太平洋・インド戦略」において重要なパートナーである。そのインドが世界最大の民主主義国としてあり続けることは重要である。したがって、カシミールで今起こっていることには注意する必要があると思われる。

 民主主義は単に指導者が選挙で選ばれれば、それでよいというのではない。議会、裁判所、法の支配や人権の尊重が伴ってはじめて真正の民主主義と言える。インドにおいては、イスラム教徒とヒンズー教徒の間での平等と平和が、民主主義が適切に機能していくためには重要であると思われる。

 モディ首相は親日的で、安倍総理に大きな敬意を示しており、日本にとっては良いインド首相であるが、権威主義的傾向があり、また、ヒンズー至上主義者であるという別の側面がある。グジャラート州知事時代、2002年、イスラム教徒とヒンズー教徒の間で衝突があった際に、ヒンズー教徒寄りの姿勢をとって、批判された。

 日本がインドの内政に口出しする必要はないが、インド・太平洋戦略は民主主義国の集まりが推進していることを強調して行くことくらいはしてもいいように思われる。インドが民主主義の原則に反し、イスラム教徒苛めをしているとの認識が広まれば、インド内部で紛争が起こるし、インドの国際的イメージも悪くなる。これがインドのパートナーの評判にも悪影響を与えるように思われる。

 先日、テレビにマハトマ・ガンジーの曾孫が出演して、ガンジーの教え、ヒンズー教徒とイスラム教徒の融和の教え、がなくなってきていると嘆いていた。

  
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