2024年11月22日(金)

日本人秘書が明かす李登輝元総統の知られざる素顔

2019年11月11日

日本に里帰りする昭和天皇お手植えの木

 その木があるのは台南市の国立成功大学のキャンパス内。そのルーツを日本時代の台南高等工業学校にまで遡る台湾南部屈指の名門校である。大学の光復キャンパスに足を踏み入れると、目の前には大きな緑の広場がある。その中心にひときわ大きくそびえているのが、成功大学のシンボルともなっているガジュマルの木なのである。

台南市の国立成功大学内にある昭和天皇お手植えのガジュマル(写真:筆者提供)

 同時にこのガジュマルの木は、ハワイの「この木なんの木」が日立グループの代名詞となっているのと同じく、台湾の有名企業「霖園グループ」のロゴマークに使われているのだ。霖園グループは傘下に国泰世華銀行や国泰保険、国泰建設などを有する大企業で、台湾をたびたび訪れている人ならガジュマルの木のロゴマークを目にしたことがある人もいるだろう。

国泰保険(霖園グループ)のロゴマーク

 そしてこのガジュマルの木こそ、摂政宮時代に台湾を行啓された昭和天皇のお手植えによるものなのである。奇しくも李登輝が生まれた大正12(1923)年、摂政宮皇太子裕仁親王は4月16日に初めて台湾の地を踏まれた。横須賀から4日間の船旅だったという。まず台北に滞在され、順に南へ新竹や台中、台南、高雄をご訪問、さらには澎湖島にまで足を伸ばされている。

 その途中の台南でガジュマルをお手植えになられたとのことだ。畏れおおくも台湾の「この木なんの木」は皇室に深いゆかりのある木だったのである。この行啓で摂政宮殿下は台湾に計12日間ご滞在されたが、明治28(1895)年の台湾領有から昭和20(1945)年の敗戦まで、天皇陛下が台湾を行幸されることはなかったことを考えると、摂政宮時代のことながら、のちの昭和大帝による台湾行啓は殊のほか意義のあるものだったといえよう。

 そして、なんとこのお手植えされたガジュマルと、行啓を祝した民衆が植えた桜の木の子孫が、日本に里帰りするというニュースが、今上天皇即位礼正殿の儀に先立つこと一週間の10月15日に報じられた。

 産経新聞によると、台湾の民衆が歓迎のため、ご投宿先である台北の草山賓館(草山は現在の陽明山)に連なる道の両脇に植えた桜と、摂政宮殿下が台南と屏東でお手植えされたガジュマルと竹の木が現在も大切に残されており、その子孫である苗木を日本に「里帰り」させることで日台の太い絆をより発展させようとのことだ。

 令和の御代を迎えたこの年に、台湾と皇室のゆかりがクローズアップされ、昭和天皇お手植えの木々の子孫たちが日本に里帰りするニュースは、即位礼正殿の儀の日を待つ日本に大変好意的に受け止められたという。明治記念館で行われた目録贈呈式で、目録を受け取ったのは安倍晋三総理のご母堂、洋子さんだった。この木々たちの「里帰り」が、日台関係のさらなる前進に大いに役立ってくれることを願っている。


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