五輪を彩るテクノロジー

2020年1月16日

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黒井克行 (くろい・かつゆき)

ノンフィクション作家

1958年北海道生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家。人物ドキュメントやスポーツ全般にわたって執筆活動を展開。主な著書に『テンカウント』(幻冬舎文庫)、『男の引き際』(新潮新書)、『高橋尚子 夢はきっとかなう』(学研)、『日野原新老人野球団』(幻冬舎)、『指導者の条件』(新潮新書)、『ふるさと創生―北海道上士幌町のキセキ』(木楽舎)他多数。

 水の中に飛び込んでしまえば、腕を掻(か)き、足を蹴り、誰よりも速くゴールを目指す。己の鍛え上げられた肉体が大きく頼りとなるスポーツ競技の一つが競泳だ。だが、それは2008年の北京五輪前までの話で、メダルの行方がわずか200グラム足らずの水着によって左右されると認識を改めさせられた。

デサントは1パーツで水着を作ることにより、動きやすさと軽量化を実現した(同社提供)

 注目を集めた水着とは英国のメーカーが開発した「レーザーレーサー」だ。縫い目がなく撥水(はっすい)性に優れ、締め付けが強くて筋肉の凹凸を減らして水の抵抗を抑え……。NASAの研究者まで絡んで開発された競泳水着だった。北京ではこれを着用した選手により23個の世界記録が更新された。

 国際水泳連盟(FINA)が09年にルールを設け、ポリウレタンやラバーなど空気を通さない素材を貼り合わせた水着の着用を禁止し、「レーザーレーサー」も国際舞台から消えた。これらの水着はウェットスーツみたいなもので、水着自体にある浮力が速さを生み出していたのだ。FINAは、競泳はあくまでも選手の能力で記録を出すことが一番の目的で、道具でタイムを出すことはよしとしなかった。とはいえ、100分の1秒が勝負を分ける水着の力が再認識されたわけだ。

 デサントはFINAのルールをクリアしたアクアフォースという薄い布に賭けた。日本のエース瀬戸大也選手はこれで東京五輪の金メダルに挑む。

 水着開発にあたったデサントの吉永康裕氏は、「厚さに苦戦した。浮力をつけるためある程度必要になるが、規定もあるし、厚すぎると水の抵抗があり、重くなる」と生地選定の苦労を振り返る。動きやすさを重視してニットが主流だったが、生地の伸び縮みが少ない織物である布帛(ふはく)素材を採用し、水中での抵抗を抑えた。さらに、独自開発により軽さと伸縮性も持たせ、動きやすさも追求した。

 布帛は筋肉に沿ってフィット感を高める一方、筋肉の動きもある程度サポートすることができる。必要のない筋肉の振動を抑制し、これによって筋肉の疲労を軽減し、筋肉の感触を調整して集中力アップやスタミナ向上を期待できるのだ。また、グッと締まるので、水に触れる面積を小さくすることができ、水中での抵抗を抑えることにつながった。競泳水着の開発における永遠とも言えるテーマは、〝水の抵抗との戦い〟だ。その克服に大きく前進したのだ。

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