分け前をめぐり子供同士が対立
Q 相続をめぐってもめる典型的なケースはどういう場合か。
A 残された遺産は家とお金という場合が多い。これを兄弟で分けて、兄は家をもらい、弟がお金をもらったとする。ところが家は親せき付き合いや墓守などもあってなかなか売れないことが多い。兄にとって家は住む場所であっても財産価値はない。つまり売る前提ではないのだ。それどころか、毎年の固定資産税の負担もある。そうすると、お金をもらった弟に対して兄が「お金を半分ずつ分けよう」ということにもなりかねない。
子供が2人、長男と長女がいた場合だと、父親が亡くなると母親が父親の財産を相続することでは子供2人は一応納得するが、母親が亡くなると今度は分け前をめぐってもめることが多い。母親の世話をどちらがしていたかなど、感情論が表に出てきてトラブルになる。また、兄弟の配偶者も「間接的な」当事者として登場し、口出しすることはよくある話だ。義父が資産家で10億円あったとする。義母は亡くなっており、自分の妻と義姉の2人が相続人だったとする。自分の妻の法定相続分は2分の1、つまり5億円あるのに、本当に何も言わないだろうか。相続の現場では、配偶者も当事者意識が出てきてしまうものである。
Q 相続する権利のある子供が多くなるとトラブルになる比率が高くなるか。
A 子供が3人いる場合に多数決ですんなりと遺産分割が決まれば問題ないが、よくあるのが3人のうち2人が分け前を多くしようと結託するケースだ。つまり2対1という構図ができあがってしまう。そうなると双方が弁護士を立てて、調停や裁判にまで発展することになり、結論が出るまでに長期化して、遺産分割が最終的に終わってもしこりを残すことになりがちだ。場合によっては関係が断絶になるケースさえある。
Q 亡くなった父親に借金があった場合、それも引き継ぐことになるか。
A 財産も借金も両方とも引き継がれ、財産だけ引き継ぐことはできない。借金を引き継ぎたくない相続人は「相続放棄」の手続きを取れば借金を引き継がなくても済む。ただし、財産も引き継げなくなるため、注意が必要だ。その場合は、家庭裁判所に自己のために相続開始があったことを知った時から3カ月以内に、相続放棄申述書を提出して手続きをしなければならない。
Q 借金を相続放棄された場合、だれが借金を返してくれるのか。
A 相続人全員が借金を相続放棄した場合、借金は中に浮くことになる。ただし、プラス財産がそれなりにある場合には、そこから回収を図る。この場合、債権者が家庭裁判所に「相続財産管理人」の選任を申し立てる。破産事件と同様、多くのケースは弁護士が選任される。この選任手続する際、家庭裁判所に予納(つまり、お金を入れる)する必要がある。そのため、プラス財産があまりない場合には、選任申立てをしないケースもある。債権者としては回収よりも支出(予納金)の方が多ければ実行に移す意味がない。
最後の決め手は「納得感」
Q 長年、遺産相続をみてきて、どういう流れになった時が、もめごとなく遺産分割が行われるのか。
A 法的には正しくて、専門家のアドバイスを受けても、相続人のうち1人でも「納得できない」と思ってしまうと、相続は難航する。そうならないためのキーポイントは「納得感」だと思う。話し合いを重ね、お互いが「納得感」が得られるような、ひとりひとりが全く違う相続の形を作り上げていくことではないか。