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2020年7月29日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

元産經新聞論説委員長

元産經新聞論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員、産経新聞社監査役を歴任。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

天才少年、絵画は不気味な題材

 トルコ移民の両親を持つケボーキアン医師は幼いころから天才少年として知られ、1952年にミシガン大学のメディカル・スクールを卒業した。

 友人らの証言によると、その私生活は、ひっそりとして、人目につかないものだった。反面、芸術に造詣が深く、ジャズを好み、作曲をなし、絵画を描くことにも親しんだ。しかし、絵画は虐殺、首つり、カニバリズムなど「死の医師」らしい不気味なモチーフが多かったという。

 2008年、大統領選と同時に行われた下院選に無所属で出馬したが、あえなく落選した。2011年に83歳で死去。「死」に強い関心を抱いていた医師は、自らの死をどう感じたのだろう。生前に、自伝「死を処方する」という本を1999年に出版、テレビ映画「死を処方する男」(2010年、アル・パチーノ主演)など、その生涯を描いた著作なども少なくない。

「死」に関心、京都事件と共通?

  「Dr.Death」の事件を、ケボーキアン医師本人にまつわる記事や筆者個人の取材にもとづいて再現したが、浮かんでくるのは、安楽死、自殺、生体解剖など「死」に関わるすべての事象に異常な関心を抱く医師の姿だ。

 翻って、京都の事件。医師2人が逮捕されたばかりで、いまだ真相解明には至っていないようだ。医師の1人の口座に、亡くなった女性から130万円がふりこまれていたというから報酬を得ることが目的のひとつだった可能性はある。もうひとりの医師が「訴追されるリスクを背負うのに、ボランティアではやってられない」ともツイッターに投稿していることからもそれがうかがえる。

 一方で、逮捕された2人の医師は以前、末期の高齢者を安楽死させる内容の電子書籍を出版していたとの報道もある。「扱いに困った高齢者を『枯らす』技術」という書籍で、「証拠を残さず老人を消せる方法がある。医療に紛れて人を死なせることだ」など、人間の尊厳を軽視するかのような記述をしている。「違和感のない病死を演出できれば、警察の出る幕はないし、犯罪かどうかを見抜けないこともある。荼毘に付されれば完全犯罪だ」とも書いている。

 こうなれば、患者の苦痛を和らげるためにやむなく安楽死の手助けするというよりも、何か別な意図、目的があるのではという疑念を抱かざるを得くなる。 

 わが国でも過去、末期患者を安楽死させて刑事責任を問われた医師が何人かいた。しかし、それらはいずれも主治医として、回復不能の患者本人の希望を入れた苦悩の末の決断だった。

 今回の場合、2人の医師は主治医でもなく、亡くなった女性とはSNSで接触を持っていたとはいえ、事件当日に初めて会って自殺に手を貸したというのだから、過去のケースとは全く異なる。

 ケボーキアン医師同様、2人の犯行は、「死の処方」、それ自体が目的だったのか。警察の今後の捜査、公判での真相究明を待ちたい。

  
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