「“大人”になったら何になりたい?」
「“大人”になったら何になりたい?」
男女平等そして個人主義が進んだスウェーデンでは、仮に「無職」であろうと誰もが社会的ステータスを持っていると考えます。ですので、たとえ親しい間柄でなくても、率直に職業を尋ねることは失礼に及びませんし、特に初対面の人とは場を盛り上げるトピックとなります。
以前、バス停で老夫婦と知り合ったことがありました。この時も例外なく、会話を続けていくうちに話題は職業へ。アルバイトはしつつもまだスウェーデン語の勉強が必要。私のこの言葉にご夫婦が返したのが、「じゃあ、“大人”になったら何になりたいの?」という問いだったのです。
移民の中でも温度差が
自分の能力を発揮し、自立した存在になる。これが移民本人の望みであることは無論、移民を迎えるスウェーデン人の期待でもあります。しかし、時に、同じ移民の中でも温度差があるように感じられるのです。特に、難民移民の中には母国に戻る事を前提としている者も少なくなく、そんな彼らは同国者だけのコミュニティーを形成し、スウェーデン社会に積極的に関わろうとしません。また、彼らに限らず、移民の中には国からの社会福祉に依存する者も多くいます。このような姿は、もちろん世間から良い目で見られているはずがありません。
移民のインテグレーションとは、一方側の働きかけだけで実を結ぶものではありません。移民側にも、自ら社会に溶け込む努力をする責任があるのです。移民が移民でなくなるためには、「こちら」と「あちら」の概念に成り立った関係は打開しなければいけません。
雇用労働省長官のJasenko Selimovi´cは、「全国民が共有できる“スウェーデン性”なくして、我が国はインテグレーションにも、移民が安心して暮らせる国家としての地位確立にも成功する事はできない。全国民が自負できる新しい国民性が必要とされている。」と論じています(Dagens Nyheter、2012年6月5日)。
異国の地に根を下ろすには労力も時間もかかる。これは移民として当然の心構えですが、本当に理解できているのかというと、別問題のように思います。実際どれほど忍耐の要ることなのか、自分の認識の甘さを痛感したのは移住後のことでした。
何カ月経った今でも、バス停で出会った老夫婦のあの言葉はよく私の頭をよぎります。そして問いかけるのです。
「あなたはどんな“大人”になるの…」と。
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今回をもって「スウェーデンで生きる 海外移住だより」は終了致します。連載を通して、私自身、スウェーデン人以上にスウェーデン社会について考えることができました。皆様にも、少しでもそれをお伝えできたのなら光栄です。どうもありがとうございました。
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