2022年12月6日(火)

ザ・移動革命

2020年11月24日

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伊藤慎介 (いとう・しんすけ)

株式会社rimOnO 代表取締役社長

1999年に旧通商産業省(経済産業省)に入省し、自動車、IT、エレクトロニクス、航空機などの分野で複数の国家プロジェクトに携わる。2014年に退官し、同年9月に超小型電気自動車のベンチャー企業、株式会社rimOnO(リモノ)を設立。2016年5月に布製ボディの超小型電気自動車”rimOnO Prototype 01”を発表。現在は、CASEやMaaSなどモビリティ分野のイノベーション活動に従事。KPMGモビリティ研究所アドバイザー、東京電力ホールディングス株式会EV戦略特任顧問などを兼務。

想定されるエアラインへの影響と途絶えかねないリスクマネー供給

 スペースジェットのローンチカスタマー(初号機を購入する顧客)として購入を決めた全日空など日本のエアラインへの影響はどうなるのだろうか。

 報道によると、全日空ホールディングスの片野坂社長は開発が進まないスペースジェットによる影響は軽微であると述べたという。過去に何度も延期を繰り返してきたことを踏まえると、スペースジェットの購入を決めていた全日空や日本航空では既に別の機体で運行する計画へと切り替えていたと考えられる。

 しかし、このまま民間旅客機が国内で一切開発されなくなってしまうとエアラインへの影響がゼロとは言い切れない。

 そもそも日本における旅客機の利用方法は特殊だ。夜間の飛行ができない伊丹空港など空港における発着回数制限があることや、盆暮れやゴールデンウィークに一気に多くの人が移動することから、羽田―伊丹といった短距離路線にボーイング777のような大型機が使われる。また、新幹線と競合する路線が多いことから列車並みの定時性を担保した運行を前提としている。国内や域内では一般的にボーイング737やエアバス320などの小型機が使われ、30分程度の遅れでは問題にならないアメリカやヨーロッパとは大きく異なるのだ。

 そのため、日本のエアラインにとって日本の特殊事情に適した航空機が開発されることは特に新幹線との競争において大きな意味を持つ。ボーイング787やMRJ/スペースジェットのローンチカスタマーとして全日空が手を挙げたのも、航空機メーカーに対して少しでも自分たちの要望を取り込んでほしいという思いがあったからだろう。

 日本の特殊事情を踏まえて航空機開発を行う国内メーカーが存在しなくなってしまうことは日本のエアラインにとっても損失なのだ。

 最後に主張したいのが国によるリスクマネーの投入が行わなくなってしまうことへの懸念である。他にも報道されているためMRJ/スペースジェットに対して国から投入されている補助金については具体的には言及しないが、航空機や航空機エンジンなどの長期リスクが伴う開発においては国からのリスクマネーの投入が欠かせない。実際にアメリカ、EU、カナダ、ブラジルでもそれぞれの国の航空機メーカーに対して多額の補助金が投入されている。

 

 国による補助金という意味では、日本企業が欧米企業とともに共同開発したV2500という航空機エンジンの開発時に創設された仕組みをご紹介したい。民間航空機エンジンの分野で実績のなかった日本企業が開発に参加するためには国によるリスクマネーの投入が欠かせないことから創設された「航空機国際共同開発促進基金」という基金だ。予算の場合は国が支払ったお金を民間企業が使用して終わるケースが一般的だが、同基金の場合は開発成果がビジネスとして成功した暁には収入や利益の一部を基金に納付する「収益納付」という仕組みを採用している。

 注目すべきことは同基金が収益納付によって今では自己回転しているということだ。国が適切な方法でリスクマネーを投入すれば民間企業の事業として成立していくことを証明する成功事例といえる。

 しかし、スペースジェットが量産に進まなくなることで国としては航空機分野へのリスクマネー供給に対して慎重な姿勢を取らざるを得なくなる。そうなると、将来的にこの分野で絶好のチャンスが到来したとしても、長期リスクを負える主体がいないことでみすみすチャンスを逃すことになりかねない。

 ここまでスペースジェットがもたらしうる影響について述べてみたが、申し上げたいことは民間航空機分野において競争力を持つ企業がいることがどれほど重要であるかということだ。平和慣れした日本では防衛産業や防衛技術を高めることについて否定的な意見を目にすることも少なくないが、航空機産業に携わってみると防衛と民間が両輪として機能しなければ欧米、ロシア、中国などと台頭に渡り合えないことが痛いほどわかる。スペースジェットを機に多くの方が日本の航空機産業の重要性について理解を深めていただくことを心から願いたい。

  
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