2024年7月27日(土)

World Energy Watch

2021年1月13日

電力需要が伸びない日本

 日本でも太陽光発電を中心に再エネ設備の導入が進んでいる。加州と日本が異なるのは、日本ではエネルギー消費が減少し、電力需要も減少していることだ。失われた平成の時代、日本の経済成長はほとんどなかった。製造業の付加価値額は1997年のピークに戻ることはなく、エネルギー消費も2000年代から減少を始めた。電力需要は電化率が上がっていることもあり伸びていたが、リーマンショックで成長が止まり2011年の東日本大震災以降は減少している(図‐4)。家庭、事業所での節電意識の高まりに加え、人口減少、低経済成長が電力需要にも影響を及ぼしている。

 電力需要が伸びない中で、FITによる再エネ設備導入と電力自由化が進んだ。自由化が進む中で発電を行う事業者は収益を生まない稼働率が低い設備を維持することが困難になってきた。総括原価主義では、夏場、冬場の最需要期に備える低稼働の設備のコストも考慮されていたが、自由化では低稼働率の設備コストは保証されない。電力需要が落ち込む中では稼働率はさらに減少するが、設備が維持されなければ停電する。

 需要が減少する状況に追い打ちをかけたのが、FITによる再エネ導入だった。太陽光発電設備が稼働している間火力発電設備からの発電量は減少せざるを得ない。需要が伸びず、稼働率が落ち込む中で再エネ設備により火力設備の稼働率がさらに減少すれば、火力設備の維持はますます困難になっていく。設備の稼働率が極端に下がれば、関連するインフラ設備の維持も難しくなり、実質的に発電所は動かなくなる。

 自由化に伴い、低稼働率の老朽化した設備の更新が行われなくなる事態を回避するための制度として導入されたのが、容量市場だ。数年先の電力供給に備え発電設備を維持する事業者には、設備能力に応じ報酬が支払われる制度だ。主要国で最も早く自由化を行った英国が6年前に導入し、日本でも昨年から入札により額が決められている。だが、先行している英国でも、制度運用は予想通りにはいかず試行錯誤にみえる。容量市場が機能し低稼働率の設備維持の費用が負担されなければ、不安定な供給力の状況は続くことになりかねない。

増える再エネと減少する火力設備

 日照に恵まれているため太陽光発電設備導入が進んだ九州では、1月上旬かなり電力需給が逼迫した状況になった。1月6日から8日までの電力需給状況と太陽光発電設備からの供給力を見ると(図‐5)、1月7日午後6時に需要量1606万kWに対し供給予備力は40万kW、予備率2.5%になった。日没により太陽光からの発電量がなくなった後、電力需要をまかなうための発電設備がかなり逼迫している状況だ。昨年夏カリフォルニア州が経験したのに近い状況だが、悪天候のためか昼間の太陽光設備からの発電量も最大時との比較ではかなり少なくなっている。さらに太陽光からの供給が減っていれば、日没前にも供給が逼迫したことになった。

 電力需要が伸びない中で、発電事業者はFITにより買取価格が保証されている再エネ設備以外の発電設備の新設・更新が難しい状況に直面している。自由化された市場のなかでは、将来の電気料金がいくらになるか不透明であり、設備を更新した後数十年間の収益を見通すのことはできず、投資の判断はできなくなる。そのため、老朽化した設備は建替えられない。

 これからは容量市場により事情が変わる可能性があるが、九州電力の過去10年間の発電設備を見ると、2011年2月時点の火力発電設備量1158万kWは、市場が自由化されたことも影響しているのだろうが、昨年9月時点で1004万kW(九電送配電の設備を含む)まで減少している。

 寒波の来襲により、当初想定よりLNG(液化天然ガス)火力の稼働率が高くなったが、貯めるための設備が必要なLNGの在庫は2、3週間程度しかない。九電の供給力追加対策のお知らせによると、LNG運搬船の速度を最大まで上げるように指示し、在庫積み増しを急ぐ対策も取られている。寒波が続き、多くの地域で降雪があり太陽光発電設備が使えなくなると、電力需要増をまかなうだけの発電量を日中も確保できなくなる可能性がある。節電が必要だ。


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