2024年11月13日(水)

Wedge REPORT

2021年2月8日

 恵方巻の季節になると、食品ロスが話題になる。恵方巻の行先として、メディアでもたびたび取り上げられるのが食品リサイクルだ。堆肥化と、家畜のエサにする飼料化が多い。食品の飼料化や肥料化を義務付ける「食品リサイクル法」に基づき、国が推進していて、大手企業が社会貢献を掲げて参入するケースもある。が、「偽装リサイクルが横行していて、行政も放任状態」だと、千葉県庁で不法投棄を取り締まる「産廃Gメン」だった石渡正佳さんは指摘する。

(MementoImage/gettyimages)

食品リサイクルが難しいこれだけの理由

 食品リサイクル法は大量消費・大量廃棄の現状を循環型社会に転換すると掲げ、2001年に施行された。いまや食品製造業のリサイクル率(再生利用等実施率)は食品製造業で95%(2017年度、農水省調べ)で、24年度の達成目標に等しい。11年度には、早々と95%に到達していた。食品卸売業、食品小売業、外食産業を含む食品産業全体でみても、84%(同)という高さを誇る。

 ただ、リサイクル率の換算方法が特殊であることに加え、リサイクルに名を借りた「実質的な不法投棄」が横行しており、額面通りに数字を受け取ることはできないと『産廃Gメンが見た食品廃棄の裏側』(日経BP、16年)の著者・石渡正佳さんは指摘する。

 食品リサイクルが難しいのは、食品廃棄物が腐敗しやすく、様々なものを含み、水分が多いからだ。食品リサイクルの中で最も量が多いのが飼料化だ。乾燥させ水分を飛ばす方法と、乾燥させずに液体状にする方法がある。

 「食品廃棄物は、乾燥させると品質のいい飼料になるけれど、乾燥に大変なエネルギーがかかるので、もともと水分が少ないパンくずなどは別として、許可は得ていてもほとんど行われていない。液体状の飼料にして豚のエサにする『リキッド・フィーディング』は、養豚場と特約して使ってもらう。ただ、導入する養豚場はまだ限られている」(石渡さん)

 腐敗防止に加え、水分量や塩分量のコントロールも必要だ。食品廃棄物は塩分含有量が多く、エサに適するものは限られる。

 飼料化に次いで多いのが肥料化で、食品残渣を発酵させ、堆肥(たいひ)にする。ただ、畑に入れ農産物の肥やしにする訳だから、飼料同様、なんでもいい訳ではない。

 「基本的に塩分が多いものはダメ。肉や魚といった動物性たんぱく質は、窒素分を含むので堆肥に向くと思われるかもしれないけれども、乾燥しないと腐りやすく悪臭の原因になるだけで堆肥になりにくい。炭水化物が多いと、分解に時間がかかる。人間が食べるものと、畑に肥料としてまくものは、窒素や塩分、水分などのバランスの面でなかなか一致しない。食品を人間や家畜が食べてし尿にすれば、上手に使うこともできるけれども、食品のままだとうまくいかない」(石渡さん)

偽装リサイクルを国が黙認

 農水省によると、17年の食品廃棄物等の年間発生量1767万トンのうち、913万トンが飼料になり、214万トンが肥料になったという。食品廃棄物の64%が飼料か肥料になった計算だが、果たして可能なのだろうか。

 なお、この数字は推計値だ。農水省は年間100トン以上食品廃棄物を出す業者から、廃棄物の排出について報告を受ける。このほか100トン未満の事業者にもアンケート調査を行っており、その結果から、全国での発生量やリサイクルの用途別の量などを割り出す。先に挙げた再生利用等実施率も同様の方法で算出する。農水省食料産業局バイオマス循環資源課は「報告に基づいており、数字に誤りはない」とする。

 だが、産業廃棄物行政に携わってきた石渡さんにとって、9割近いリサイクル率の達成というのは受け入れがたいという。

 やはり環境問題に関する農水省の統計で、現実と開きがあると指摘されるデータがある。1999年に成立し、2004年に本格施行された家畜排せつ物法の施行状況調査だ。同法は、畜舎から出る家畜の糞尿が周囲の環境を汚染しないよう、対策を講じる目的で定められた。施行状況調査は2年に1度、都道府県からの報告を取りまとめて公表される。19年12月時点で、100%の農家が環境基準に対応した糞尿の浄化や堆肥化の設備を備えているという。

 完美なまでの達成率に、新法を作ったからには成果を上げなければならないという忖度が働くのかと、勘繰りたくなる。なお、筆者はこの数字を額面通り受け取っている人に、農水省職員を除いて会ったことがない。

 食品リサイクルに話を戻すと、石渡さんは壮絶な現場を数知れず見たと話す。

 「食品リサイクル法という法律を作ったけれども、ほかのリサイクル法のようにはいかないので、とりあえずリサイクルをうたっている処理施設に入れば、後はどうなっていようと、仕方がないというのが、ほとんど。とりあえず、食品を生のまま捨てなければいいくらいの……いや、昔は生で捨てていたところがあって……。今もほとんど生同然で捨てているところもあるけれども」

 堆肥をつくるには、食品廃棄物に木くずなどを混ぜ、発酵熱を利用して乾燥させつつ熟成させる。発酵の時間は少なくとも2週間程度は必要だけれども、堆肥として未熟な状態で畑に入れても、肥料取締法上は問題ない。

 筆者も、食品会社が畑に食品を入れたがっているという話は聞くし、社会貢献をうたって食品残渣を畑に入れているものの、実際には肥料としての効果が乏しい事例を耳にする。石渡さんによると、粗悪で売れない堆肥を大量に畑に入れるやり方として、最も多いのが「天地返し」と呼ばれる処理方法だ。

 「畑に大きな穴を掘って、大量に使い物にならない堆肥を入れて、上にもともとの表土を戻して終わり。土壌改良材や盛り土材と称していることもあるが、実質的な不法投棄で、これが食品リサイクルの実情だ。ただ、それをダメと言ったら、食品リサイクルはやりようがなくなってしまうので、国としては何でもいいから作って埋めてくれれば問題ないという話だ」(石渡さん)

 肥料としての効果がないものを畑に入れるというのは、農家にメリットがないように思える。が。

 「天地返しを受け入れる農家は、多少の協力費をもらっている。産廃の処分費として受け取るのはダメなので、協力費ということで、お金をもらう」(同)

 千葉県庁で1996年から産業廃棄物行政に携わり、産廃Gメンとして活躍した石渡さんは、食品リサイクルの不法投棄を取り締まるようにと国から指示を受けたことはないという。そもそも食品系廃棄物の不法投棄は、国の統計上はほとんどゼロか、あっても微々たるものだ。石渡さんは「食品の偽装リサイクルを摘発、指導してきたけれども、取り締まっている自治体はほとんどないはずだ」と指摘する。

 なお、環境省に問い合わせたところ「環境省としては、自治体が廃棄物の不法投棄がある場合に、指導をしなくてもいいということではない」との回答だった。食品リサイクル法を所管する部署の一つが、農水省食料産業局バイオマス循環資源課だ。同課にリサイクルの偽装について見解をただしたところ、下の回答があった。

 「リサイクルの方法が適切か不適切かというところになると、廃棄物処理法で環境保全上問題がないようにリサイクルしなければならないと細かく基準を設けている。他にも肥料取締法だったり飼料安全法など個別の法律で、できたリサイクル製品に問題がないかを見ていくことになる。食品リサイクル法を所管している観点から、不法投棄への見解を伝えるのは、なかなか難しいところがある」

 食品リサイクルを推進する部署と、不法投棄を取り締まる部署は分かれている。筆者がこの記事を執筆するだけでも、環境省と農水省の複数の部署に問い合わせており、質問によってはまた別の照会先を紹介される始末だ。食品リサイクルの規制が必要な場面で、部署を越えた連携がどの程度取れているかは甚だ疑問であり、偽装リサイクルは縦割り行政の間隙をついたものとも言えるだろう。


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