イギリスも新重商主義
イギリスのEU離脱もそうである。
イギリスの誇る主治医制度は増え続ける移民・難民によって歪みを生じ、犯罪件数も増加した。一般市民は生活レベルの低下を実感し、それが16年のEU離脱の原動力となった。
その意味では、雇用や治安を守るべく不法移民流入を防ごうとしたトランプ政権の「国境の壁」建設と、同調する方針と言える。
「反移民」「反EU」「反イスラム」を掲げるポピュリズム政党は、ハンガリーやポーランド、ドイツ、イタリアなどでも急増中だ。
ソ連の崩壊、アメリカの凋落、ユーロの行き詰まりなどを予見してきたフランスの人類学者・歴史家のエマニュエル・トッドは、イギリスのEU離脱が決まりトランプが大統領選挙に望む直前の時点で、酒井氏の主張と同じく、「世界がグローバル化から国民国家の枠に戻る」と述べている(16年9月29日付、朝日新聞)。
時代が大きな節目にさしかかっている理由は2つだ。
アメリカの白人の45~54歳の死亡率が近年上昇しているように、グローバル化による低賃金の労働力を巡る激しい競争などが、多くの市民にとって耐えがたくなっていること。
もう一つは、グローバル化で、各国のエリートが自分の国の人々に対して責任を感じなくなったこと。そのためエリートたちが主導したEUを中心に、(自分は何者かという)アイデンティティの危機、共同体に帰属しているという感覚の危機が生じ始めたのだ。
トッドによれば、「今、EUは解体しつつある」。その決定打となるのは「移民危機」だという。
酒井氏はEUに関してはトッドほど悲観的ではなく、独仏のリーダーシップに期待を寄せるものの、気候変動によるアフリカからヨーロッパへの民族大移動という、やはり「移民危機」に警鐘を鳴らす。
武力紛争による移民・難民の移動は数十・数百万人単位だったが、水不足・食糧不足による移動となれば、数千万・数億人規模に膨らむ。
欧州諸国には「新型コロナウイルス以外にもう一つ大きな試練が待ち受けている」と予測されるのだ。
さて、バイデン政権である。
新政権のクレイン主席補佐官は、政府調達で米国製品を優先する「バイ・アメリカン」政策の強化を発表した。またブリンケン国務長官は、トランプ政権の対中国強硬政策を「正しい、支持する」と政策の継続を表明した。
バイデン大統領は、国民の半数以上に不人気な国際(協調)主義エリートの主張をどこまで取り込み、「独自色」を出せるのか?
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