入院調整を効率化した
北九州市と医師会の取り組み
その中でも特に大きな負担となっているのが、感染者(患者)の入院先の調整だ。各保健所では、患者の症状や、重症化リスク(がんの治療中か、65歳以上の高齢者か、BMI30以上の肥満かなど)の有無、人工透析の必要性などを確認し、入院を促している。
現在、入院先を探す業務は自治体の「入院調整チーム」が行っていることが多い。にもかかわらず、保健所の手間はなかなか減らない。その原因は「地域の中で情報共有が進んでおらず、入院先の医療機関や自治体の調整チーム、保健所との間で何度も〝手戻り〟が発生するからだ」と福岡県新型コロナウイルス感染症調整本部に所属する山口征啓医師は指摘する。
患者の受け入れを打診された医療機関は、受け入れ可能かを判断するため、患者について数々の「照会」をする。食事や排せつなどの日常生活動作(ADL)はどの程度行えるか、合併症はあるか、認知症の程度はどうかなど、その内容はさまざまだ。医療機関の人員の状況によっても変わるため、「保健所職員は医療機関と陽性者や濃厚接触者の間で何度も電話連絡を繰り返すことになる」(山口医師)という。そもそも保健所が受ける発生届には、こうした情報を書く欄がない。
こうした状況を運用によって変えたのが福岡県北九州市だ。同市では独自の「診療情報提供書」を作成し、医師会を通じて医療機関に配布、発生届と同時に記載を促している。診療情報提供書には、受け入れを検討する医療機関側が照会する情報があらかじめ項目として記載されている。そのため、患者を診察し、検査を促した医師が情報を書き込み、発生届と一緒に保健所に送ることにより、「必要な情報を関係者間で共有しやすくなった」(北九州市新型コロナウイルス感染症医療政策部の河﨑直美感染症予防係長)という。
こうした取り組みをしつつ、保健所に偏っている感染症対策の負荷を分散していくことが必要だ。
国立病院機構三重病院の谷口清州臨床研究部長は「本来、新型コロナのように、感染者数が増えれば重症者数が増えてしまう感染症に対応するには、保健所に、感染拡大を防ぐための濃厚接触者調査や、疫学調査に注力してもらうことが必要だ。健康観察については、血中酸素濃度を測定できるパルスオキシメーターという装置を使えば、自宅にいても酸素濃度の低下に気づくことができ、入院調整を含めて基準を決めておけば保健所職員でなくても対応は可能だ。そうした業務はアウトソーシングを進めるべきだ」と指摘する。
しかし、いくら保健所の入院調整業務を効率化しても入院先の医療機関自体のひっ迫が解消しなければ、重症者数・死者数を減らすことは難しい。東京や大阪など都市部の各保健所からは「酸素投与が必要な中等症程度だと、即時の入院は難しくなっている」との声が相次いだ。
神奈川県健康医療局の足立原崇医療機関調整担当部長も「他の疾患の治療に影響を与えない範囲で新型コロナ患者の〝即応病床〟を設定しているが、そのうち重症者病床の稼働率は1月31日時点で約93%とひっ迫した。最大限確保している病床まで使えば受け入れの余裕ができるが、そうすると他の疾患の患者に影響が出る」と語る。