2024年4月27日(土)

Wedge REPORT

2021年2月25日

高齢化の進む日本が
抱える終末期医療の課題

 こうした医療体制のひっ迫を招く一つの要因として関係者が次々に指摘したのが、高齢化の進む日本が抱える終末期医療の課題だ。

 厚生労働省の資料によれば、全国の新型コロナ重症患者447人のうち、80代以上が86人を占める(1月20日時点)。入院調整に携わるある医師は「新型コロナ以外の病気で80代以上の患者の呼吸状態が悪化している場合、人工呼吸器を挿管しても助かる見込みの少ないことや、人工呼吸がやめられなくなって、延命治療になってしまう可能性があることを家族に話すと、緩和ケアを選択することも多い。しかし、新型コロナでは、普段は救急医療を行っていない病院ではそうした対応に慣れておらず、重症者病床にいつも以上に入院して、病床を圧迫している面もあるのではないか」と語る。

 また、回復した後の転院先や施設の確保も課題だ。新型コロナの患者については、症状が軽快し、発症から10日経っていれば退院することができる。しかし、「認知症や高齢者の患者が軽快しても、もともと入居していた介護施設でクラスターが起きると受け入れ余力がなく、戻ることは難しい。他の病院や施設に受け入れてもらいたいが、そうした手続きは家族への説明など時間がかかる上に、『本当に感染力はないのか』、と受け入れ先からゼロリスクを求められることもある」(治療にあたる感染症医)。

 こうした高齢者の問題は医療ひっ迫の要因の1つにすぎない。感染症の流行が拡大し、年齢問わず中等症以上の患者が数多く発生してから、医療資源を集めて場当たり的に対処していくのでは、対応を続けるにも限界がある。

 感染症の医療体制に詳しい国際医療福祉大学大学院医学研究科の加藤康幸教授は「自宅療養中に亡くなる人がいること自体、社会不安につながりかねない。患者が一気に増える呼吸器感染症に対応する病床をどう確保するかという課題は、1999年に感染症法が施行された当時は十分認識されていなかった。その後の2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)や09年の新型インフルエンザを経てもすぐに忘れ去られ、議論が深まらず、地域での医療機関の役割分担は十分に準備されないまま現在に至った」と指摘する。

国として誰を
どうやって守るのか

 われわれは今後、新型コロナの教訓を生かし、どのような体制を整えていけばいいのか。

 前出の谷口臨床研究部長は「中長期的には、感染症が発生した際の基本である3つの対策―①検査で感染源を見つけて隔離する、②感染経路を見つけて断つ、③感染しないように予防接種や十分な栄養を取る―を『戦略的に』行う拠点を定めること。その拠点に検査能力を持たせるなど、平時からいざという時のためのリソースを十分維持しておくこと。そして、感染症の流行に対処するための地域医療の危機管理体制を構築しておくことが必要だ」と指摘する。

 地域医療の危機管理体制を構築するには、高齢者や認知症のある感染症患者をどのようにしてケアしていくのか、そうした能力や施設をどう備えるか、さらにはそのための財源が必要であることは論を俟たない。

 「どのような対策をするにしても、国として誰をどこまで守るのか、何を目指すのか、そのグランドデザインを政治が国民に明らかにして、それを守る行動を起こさないといけない」(公衆衛生政策に詳しい慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室の坂元晴香特任助教)。そして何より、そうした体制が整っていない今この時の危機を乗り越えるために、われわれ一人ひとりが現場の「頑張り」や「粘り」に頼りきりにならず、少しでも負担を減らせるよう、基本の感染予防を続けることが何よりも重要だ。

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Contents     20XX年大災害 我々の備えは十分か?
Photo Report     岩手、宮城、福島 復興ロードから見た10年後の姿

Part 1    「真に必要な」インフラ整備と運用で次なる大災害に備えよ  
Part 2     大幅に遅れた高台移転事業 市町村には荷が重すぎた             
Part 3     行政依存やめ「あなた」が備える それが日本の防災の原点      
Part 4   過剰な予算を投じた復興 財政危機は「想定外」と言えるのか   
Part 5     その「起業支援」はうまくいかない 創業者を本気で育てよ          
Part 6   〝常態化〟した自衛隊の災害派遣 これで「有事」に対応できるか

  
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◆Wedge2021年3月号より


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