WEDGE REPORT

2021年3月30日

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多賀一晃 (たが・かずあき)

生活家電.com主宰

スマート家電グランプリ審査員。主催する『生活家電.com』を通じ、家電の新製品情報、使いこなし情報他を発信中。過去、某メーカーでAVメディアの商品企画を担当、オーディオ、光ディスクにも精通。また米・食味鑑定士の資格を有する。水、米、パン、珈琲、お茶の味に厳しい。

拡がる世界

ギザの大ピラミッド頭頂からのビュー。中でも、最も美しいとされる瞬間。非常に幻想的ですらある

 彼らがしている3Dスキャンは遺跡だけではありません。例えば、「沈没船の同定と状況把握」にスキャンは大いに役立ちます。一つの例が、日本海軍の特秘遭難事件 美保関事件の駆逐艦「蕨(ワラビ)」。ニュースでも流れましたので、ご存知の方もいらっしゃるかも知れません。

 船名が肉眼で確認できればいいのですが、多くの場合、確認できません。ここで沈没した記録があるのは「××」だけだから「××」と言い切る人もいますが、海には海流がありますし、公式記録のないところで、沈没した船(戦争時の極秘行動など)もあるかも知れません。ロシア、中国の潜水艦の残骸の可能性だって否定はできないでしょう。

 これも水中ドローン にカメラを搭載して、3Dスキャンすれば、残骸のサイズ、形が分かります。船は設計図が残されていますので、それと照らし合わせれば、正確な同定ができるわけです。

 3Dスキャンはいろいろ使える技術なのです。

 また、スキャンの可能性自体も拡げています。九州大学共創学部 World Scan Labを立ち上げ、新しい可能性を探っています。

 もう一つの新しい可能性は撮影機器としての可能性です。本来なら、ドローンは凧揚げの様に、多くの人が操縦を楽しめるのが一番。しかし、実際、無許可で飛ばせるところなど、ほとんどありません。要するに、子供用のおもちゃとして成り立たないのです。

 日本はよく、ハードはいいんだけど、使うのは海外の方が上と、揶揄されることが多い。法律では高校生から乗れるバイクも、その一つです。3ナイ運動で遠ざけられています。ドローンも似たようなところがあります。しかし、もう少し適用をリーズナブルにして、ドローンに搭載されているAIで法律を守る様にしたらどうでしょうか? 面白くもあり、犯罪防止にも役に立つのではないでしょうか?

 操縦の腕前をあげることも重要です。仕事でドローン使う限り、言い訳はできません。ドローンを落として遺跡などを傷付けようものなら、国際問題に発展する可能性があります。これを防ぐためには、一つは念入りなフライトプランを立てることと、操縦の技量を徹底して上げることです。市川氏は、ドローンの教育用アプリを手掛ける構想もあるそうです。

 当然、ドローンは自動操縦という一面も持っており、プログラミング教育にも役立ちます。AIが強化されればされるほど、より明るい未来が来ると思われます。実際、学校の校庭の上だけでも自由に飛ばせるようになれば、未来は変わってくると思います。

 ちなみに市川氏は、ドローンが許可されないところは、7mまで伸び縮みするカーボンロッドの先にカメラをつけて撮るそうです。長さで知られる織田信長の三間槍より長い伝家の宝刀。先人らしい苦労もされています。

 ビジネス的な発展も期待できます。ギザのピラミッドの正確無比な縮小模型など出したら、すごく当たると思います。また、東京 上野に、完全レプリカ(ただし、素材と内部は別)で博物館などを作ったらどうでしょうか。完全再現ですよ。またお台場にピラミッド登坂競争を立ち上げるのも一興。レプリカは傷つけても問題ありませんから、安全綱と言う安全策も取れます。いろいろなビジネスが眠っていると思いませんか?

「好奇心」を捨てないで

 市川氏のような生き方は、望んでもできることではありません。その点、とてもうらやましくあります。が、その一方、今の社会に足らない点が見えてきます。それは、「今の社会は変えられる」という認識です。

 人は、小学校から教育を受けます。が、少なくとも大学までは、今ある社会に入り込むための知識と考えを得るためです。日本の場合、大学入試でこれが一度御和算になります。大学時代は、極端な言い方をすると、じっくりと自分探しができるわけです。ただ残念なことは、日本の場合、2つの問題があります。1つは、既存社会の枠組みがガチガチであること。そしてもう1つは新しいビジョンが提示出来ないことが多いことです。

 大学で「××をテーマにして研究したい」と申告した時、何でもOKとはなりません。指導教授の手のひらの中でとなります。多くの場合、教授の学説を支えるための研究をさせられます。

 こんなテーマ選択だと、学問は硬直化しますね。学問は「学び問う」。新しい視点は必ず必要です。私がさるメーカーに研究職で入社、どこに配属されたいかと問われた時の話です。ほとんどの人が大学と同じテーマを選択しました。私は驚きましたね。訳を聞いて見ると、多くの人は「やったことがあるから。」と言う返事でした。「たかが2年。しかも、大学で選択できる少ないテーマ。確かに、土地勘はあるかも知れないですが、それだけで決めるのか……?」。これでは、活発な研究は無理です。

 そして、もう一つの問題「ビジョン」。これは、別視点から自分がしていることを視ることが必要です。新入社員には無理です。このため、社会では、次の言葉に置き換えられます。「あなたはどんな技術者になりたいですか?」

 しかし、ある意味、方向性を他人に決めてもらうわけで、やってものにとしたいことと違っていたと言う人はずいぶん多くいます。また、若い人の中には「ビジョン」を持っている人もいます。が聞いて見ると、多くの人が「したいことはあるのだが、食って行けない」と悩んでいます。

 人の行動のほとんどは「好奇心」から始まります。そして「何となく、いい感じ。これで頑張ろう。」となります。しかし、それをモノにしていくには、膨大なエネルギーと不退転の意志が必要です。市川氏の場合、それを「遺跡に対する好奇心」「アーティストとして新しいものを表現すると言う矜恃」が支えたわけです。私は話を聞きながら、アートと言う矜恃を持ちながら、「遺跡」に関われた氏は、すごく強運だったと思います。

 確かに、こんなことは誰でもできるわけではありません。しかし「好奇心」を捨てると、最後まで行き着けない。非常にパワフルな新しい体感をもたらす「世界初 Egypt Giza Pyramid 360VR」は、そんなことも感じさせる映像です。

 ピラミッドパワーをもらえる人もいるかもしれません。

  
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