2022年12月8日(木)

近現代史ブックレビュー

2021年4月17日

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筒井清忠 (つつい・きよただ)

帝京大学文学部長

1948年大分市生まれ。帝京大学文学部長・大学院文学研究科長。東京財団政策研究所上席研究員。専門は日本近現代史、歴史社会学。『昭和十年代の陸軍と政治』(岩波書店)、『二・二六事件と青年将校』(吉川弘文館)など著書多数。

北・大川と小池都知事を結ぶ線?

 昭和初期には、ナショナリストらしく対外強硬論を主張しつつ、華族の政治的・経済的特権の廃止、搾取の廃絶、女性参政権など昭和初期としては珍しいナショナルな無産運動を起こしており、「天皇」を戴いたのでなければ左翼と紙一重という運動を続けていったことがわかる。

 1933年には大亜細亜協会を設立、孫文の大アジア主義に基づく東亜諸民族の解放を謳った。その後、日中戦争中は日本と中国との何らかの形の提携を目指して陸軍の影佐禎昭少将らと解決のために動いたりしているが、その後の日米戦争時代も含めて誰もがアジア主義を高唱する時代になると、かえって活動に精彩が欠けており、むしろ独自の活躍をするのは戦後となる。

 すなわち、戦後エジプトにナーセルを訪ね親交を結ぶなど、日本におけるアラブとの連携活動に積極的に動き、日本とアラブ諸民族との親善友好関係増進のために下中弥三郎・中曽根康弘・高崎達之助らとともに「日本アラブ協会」を発足させたのである(1958年)。

 エジプト政府から共和国最高勲章を受章。晩年の会でも、生涯を振り返り猶存社・北・大川の影響が決定的であったとし、「日本の民族主義とアラブの民族主義の連結」を説くことになる。

 この活動の中から、日本アラブ協会評議員となる小池勇二郎が現れ、その娘が日本アラブ協会事務局長・小池百合子であった。89年のアラファトの訪日時の会見の通訳は百合子である。

 1990年、フセイン・イラク大統領の共和国防衛隊がクウエートに侵攻、日本人を含む人質解放に日本アラブ協会事務局長・百合子が動き、バクダッドに出発する直前、死の床の中谷を訪問した。「アメリカの言うがままでは日本民族の自主性はない」が遺言で、「私の手をぐっと握られた」という。中谷の葬儀の香典も中谷の三男と小池が相談して「パレスチナ解放機構(PLO)の子供たちのために」駐日パレスチナ総代表部に寄付されたという。

 小池の活動や言説については当時から批判もあり真偽不明のところもあるが、こうして見ると、マクロに言うと、北一輝・大川周明と小池百合子を結ぶ線があるとする見方も可能だ。しかし、これは小池の思想性の過大評価かもしれず、著者は小池については書いたものを検討しつつ今後の研究課題としたいとしている。

 本書には1つ残念な点がある。昭和前期の陸軍の派閥対立の中で、中谷が橋本欽五郎らの「清軍派」の1つの中核とみられることをある程度はっきりさせたのは成果と言えるのだが、皇道派・統制派の抗争などに関しては、現在の研究水準から見ると信用性の乏しい書物に依拠してしまっていることである。陸軍の内部の把握については信頼できる研究に依拠するよう今後の著者に望みたい。

 しかし、こうした点があるとはいえ、全体として本書は、これまでの綾川武治・沼波瓊音・三井甲之・久松潜一らの研究とともに日本の超国家主義についての研究を大きく前進させた好著として高く評価されるべきものといえよう。

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PART 4  少子化対策 「男性を家庭に返す」  これが日本の少子化対策の第一歩
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Column 高齢者活躍 お金だけが支えじゃない  高齢者はもっと活躍できる
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